第八十話 農業を始める
僕はチャップが大量に集めてきた作物の種子類の中から、稲の苗を選んで持ってきた。
「稲からやろう!」
どうしても米が食べたい……
「イネ……? 何ですかそれ?」
ヒト族は稲を知らないのか……くそぉ……まあ、僕もこの世界に米があるとは知らなかったからな。
「米っていうとてもおいしいものができるんだけど、知らないなら仕方ないか」
「いや、オラの『農神』ジョブなら大丈夫です。ちょっとそれを貸してください」
アレクが言うので、苗を手渡す。
「『シード・インベスティゲート』」
スキルらしきものが発動し、稲が淡く光った。
「こいつの声がすごくよく聞こえますだ。いつもは何となくしかわからねぇんですけど、今日は絶好調だ。どうやって育ててほしいかはっきりわかるだ」
「よし、じゃあ苗を植えよう! 手伝うよ」
「領主様、失礼ですけれど、どこに苗を植えるんで?」
アレクが尋ねてくる。
「どこって……この地面でしょう?」
「いやいやいや、無理でさぁ。こんな土で苗が根を張れるわけがないでしょう? 木も多いし、日も入らんし」
うっ……けっこう言い方きついね。さっきまで君も知らなかったよね?
「そうか……じゃあ、まずは整地しないといけないか。リンネ、ノクティア、頼めるか?」
リンネが木々を次々に伐採していく。
「とりあえず、これくらいでいい?」
あっという間に百メートル四方くらいの範囲の木々が倒されていた。
そしてノクティアが「ヘル・フレイム」で一気に木と根を燃やし尽くすと、きれいな土地ができ、明るい陽が差した。
3人の農夫たちは唖然とした表情をしながら、今起きた出来事を見守っていた。
「信じられん……何じゃこりゃぁ」
アレクが呟いた。
「これでどうにかなるかな?」
「……へぇ、まあ、こっからはオラたちのスキルの見せどころで」
「おお、農業スキルが使えるんだ? 道具とかいらないの?」
「へぇ、道具なくても大丈夫ですが、ちょっと時間いただくと思いまさぁ。まずはオラが地道に開墾していきます」
なるほど、まずは土作りということだな。
「『レクラメーション!』 ええ!?」
二十メートル四方の地面が盛り上がり崩れた。
「いや、なんじゃこりゃ。こんなに一度で開墾できるスキルじゃねぇんだが…..」
「それは僕のパッシブスキルの効果だよ。気にせず続けるといい」
「パッスィブ……まあええか。こりゃ休憩なしで全部いけそうだ」
ものの数分で、百メートル四方の農地の全てが耕された。区画ごとに畦もできて、土の養分の生成までされているらしい。
「こりゃすごい。次は水路が必要なんですが……」
アイクが屋敷の裏の湖を見やる。
「ディッギング!」
ものすごい勢いで土が掘られ、一直線に湖に向かっていく。
気がつけば湖の水が耕した農地までの水路ができて、水が流れ出した。
そこでアレクはイサクとウイクも呼んで、慌てて木切れや石を集め始めた。
「水が溜まりきる前に堰き止めねぇと、びちゃびちゃになっちまう」
「ああ、あとでアーレンに水門を作ってもらおう」
ひとしきり水が循環したところで、アレクが堤防を作り、水を堰き止めた。浅く水をはった田面が陽光を反射する。
「さあ、次はイサクの番だ。オラたちみんな『農神』ジョブなんだけんど、それぞれ違うスキルを取得しとるんだ」
イサクが前に出る。
「苗をお借りしますぜ」
そう言って、イサクは無造作に全ての苗を地面に撒き散らした。
『トランスプラント』! ……おおおぉぉぉ」
苗が次々と無数の矢のように飛び立ち、アレクが開墾した田に向かい、等間隔に刺さっていく。イサクもいつもと違うスキルの効きに驚いているようだ。
まるで戦場さながらだ。
これもまたものの数分で田んぼにびっしり……と思ったが、そこまで苗はなく4分の1ほどの区画にも満たないところで、田植えは完了。
「最後はウイクが仕上げをしますで」
ウイクが前に。
「『シード・グロウ! あああぁぁぁ」
見る間に稲がどんどん育っていき、ついには穂を垂れるまでになった。
「いやぁ、農業は得意だけど、こんな一日で作物が育つことなんてないべ。本来は中干しとか灌漑とかもいるでな」
本当にありがたい。チャップもお手柄だ。
「稲刈りのスキルもあるの?」
「いんや、収穫は地道に人手でやらんといかんです」
「切るだけならできるよ」
リンネは言うが……切るだけじゃなぁ。
「作物を作るまではいいけれど、人手がいないと刈り取るのが大変だな」
「刈り取ってから、脱穀やら精米やらも必要でさぁ」
なるほど、こんなチートスキルでも対応しきれないが手順がたくさんあるんだ……農業は大変だな。やはり領民がもっといなければこれ以上の発展は難しいか。




