第七十九話 路頭に迷った者たち
<<おそらくアビスヴォイドの幹部だろうな>>
「え? そうなの。じゃあ、もっといろいろ聞いておけばよかったな」
<<話すわけないだろう。逆に俺たちの状況は知られているわけだ>>
「こちらは不利な状況ってわけか」
<<有利でないのは確かだな。だがいずれにしてもまずはこの領地を早急にしっかり守れる状況にしなければならないぞ>>
「帰りましたー!」
陽気な声が会話を遮り、バタンと大きな音を立てて屋敷の扉が開いた。
今度こそチャップだ。アーレンも一緒に入ってくる。
首尾よく人材を見つけたのか、2人の後に3人ほどの人物が続いてきたが……ちょっと、あれだな、みすぼらしい格好をしている。
ごまかしようのないほど服は汚れて、大きな穴が開いているし、臭いも……きつい。
失礼ながら、ちょっと期待していた人材とは違うが、ウィルクレストの町で生活に窮していた人々を助けるために連れてきたのか。それはそれでもちろんよいことだ。
「この方たちは?」
「いやぁ、話すと長くなるんですけどね、人材といえば、冒険者ギルドだと思って行ったんですけど、あそこは内政向きの人なんてぜんぜんいないんですね。一日中待ってもゴツい感じの人とか怪しい感じの魔法使いしか見ないんで、諦めて帰ろうかと思ったら、人材を紹介してくれるって人が現れたんで、ありがたいと思って紹介料渡しまして、その人は心当たりのある人を呼んでくるから宿で待ってろと言われて、何日も待っていたんですが、ぜんぜん来なくて、たぶん騙されたんですね。ははは」
相変わらずのポンコツぶりである意味安心するな。
「そこで思いついて、『失敗したらスキル実行』ということで、町中で適当に『バリュー・ディスカバリー』してみたんです。そうしたら町中で物乞いをしている彼らを見つけまして、『いい仕事があるから来ないか』って声をかけたら、二つ返事で『行く』って言うんですよ。どうです?」
と自慢げだが……本気でよい人材を見つけたと思っているんだろうか?
<<なかなかよい人材を見つけてきたな>>
そうなの? アイマが言うならそうなのか。僕も人を見た目で判断しちゃダメだな。
「そうなんです。彼らはもともと農家だったんですが、ブラッドランス伯爵家の領地になってすぐ不景気になって、財政難になったブラッドランス家に農地を接収されてしまったそうでして、その不景気のせいで他に仕事も見つからずで路頭に迷っていたんですよ。だから彼らは農業スキル持ちなんです」
<<食糧の確保も領地防衛の重要な要素の一つだ。腹が減っては守るに守れないからな>>
「チャップがドワーフ王国で手に入れた種や稲が使えそうだね」
チャップの連れてきた3人はそれぞれ簡単な自己紹介をした。
それぞれ、アレク、イサク、ウイクと名乗った。共同で一つの農地で働いていたそうで、それぞれ得意な作業が異なるらしかった。
<<アーレンには別で防衛に必要なものを作ってもらいたいんだが>>
「まずは布団!」
「はい、素材はそろえてきたので大丈夫です」
<<休養も大事だな。では、アーレンは布団作りが終わったら教えてくれ。まずは農地開拓だ>>
「あ、あとちょっと武器を作ってほしいんだ。いい素材が手に入ってね」
僕は持ち帰ってきたグリフォンの爪を荷物袋から取り出してアーレンに渡した。
「これはまたすごい素材ですな。腕がなります」
「無駄にしてほしくないから、他の素材で失敗してからにしてね……」




