第七十五話 魔素毒
<<魔素の散布機だ。魔素毒を入れて撒き散らしていたようだ>>
「そんなものが……」
サイラスがつぶやいた。
<<ノクティア、ピンポイントでそのあたりを「ヘル・フレイム」で燃やしてくれるか?>>
ノクティアがうなずき、「ヘル・フレイム」を発動する。
範囲を絞ったせいか、高い火柱が立った。
火柱の跡にはむき出しの地面だけが残った。
<<これでとりあえず無害化できたな。ゼルミナ、まず自分を解毒できるか? 失敗しても繰り返すんだ>>
「何度やろうができないと思うのだが……」
ゼルミナが短い詠唱をする。
「アンチドーテ」
薄い光がゼルミナの全身を包んだ。
「うん? 治ったぞ。なぜだ……」
<<魔力も弱まっていたようだから、今までの「アンチドーテ」ではこの毒には対応できなかっただろうが、今はユウマの傘下だからな。それにしても失敗なしで一発成功させるとは。元の魔力がよほど強いからだな。継続的に毒を撒いていた装置も取り除いたから、もう問題ないだろう>>
「僕のパッシブスキルで、仲間になった人は常にスキル効果にバフがかかるんだ。失敗すればさらに効果が高まるよ。あ、でもダークエルフの魔法ってスキルなの?」
<<ダークエルフはヒト族に近い魔素器官を持っているからな。その魔法はヒト族のスキルと同等と見なされるようだ。おそらく種の起源は同じ、古の魔族なのだろう>>
「それならよかった。ゼルミナ、サイラスも解毒できるか?」
「うむ」
ゼルミナがサイラスに「アンチドーテ」を施すと、見る間にサイラスの顔色もよくなった。
が、サイラスは特に嬉しそうでもない。無表情なやつだな。
「他の人たちも解毒してあげなよ」
「うむ、そうだな。各家を回るので、そのあたりで待っておれ」
ゼルミナは木々の上に建つ家を浮遊しながら回っていった。サイラスもゼルミナについていった。
大きな集落ではないようなので、そこまで時間はかからないだろう。
僕たちは、ゼルミナが治療に回っている間、彼女の家の木の下で待つことにした。
「しかしなぜあんなものが結界内にあったんだろう」
<<魔素毒の散布機を用意したのは。まず間違いなく「アビスヴォイド教団」だ。それなのに、やつらはゼルミナに蛮族の仕業だと思わせたんだ>>
「アビスヴォイド教団が何らかの方法でゼルミナに接触して、誤った情報を吹き込んだの?」
<<その可能性が高いな。治療が終わったら話を聞こう>>
小一時間ほどして、ゼルミナが解毒を終え、サイラスとともに戻ってきた。
ゼルミナの表情は明るい。
「今晩は宴だ。大量の獲物もある。皆に体力を取り戻してもらいたい。それに新領主の歓迎も兼ねてな」
「それはいいね。……だけどその前に少し話をさせてもらえないか?」




