第六十九話 魔素の森の奥
「ノクティアはダークエルフ族がどこに住んでいるのか知っているんだよね?」
僕が尋ねると、ノクティアはぎこちなくうなずく。
「……母親から聞いたことはある……だが、話ができるような相手ではないと思うぞ」
「同じダークエルフ族でも?」
「私の親は追放された身だ。その上、私のように他種族の血を引く者を信用しないだろう」
「でも直接接触したことはないだろう? もしかしたら話の通じる相手かもしれないよ」
<<そうだな、いずれにしてもまずは接触してみなければ始まらない>>
ダークエルフの住処に向かうため、僕たちは準備をした。
<<屋敷は空けておいていいだろう。盗られて困るようなものもまだないだろう? チャップとアーレンは町に行ってくれ。チャップは人材探しを、アーレンは生活に必要な素材を適宜探してくるといい>>
「布団よろしく!」
そうして僕たちは屋敷を発ち、アイマを含め、久々に「ラスティ・ジャンク」で冒険となったが、アイマがいると安心感が違う。
ノクティアの案内で魔素の森の奥深くに入っていく。
深部に行くほど、出現する魔物も強そうになっていくのだが、リンネが片っ端から豆腐のように斬っていくので、実際に強いのかよくわからない。
森を進んでも進んでも、同じにしか見えない景色だけが続くのだが、ノクティアは確信をもって進んでいく。
ノクティアがいなくなったら帰れないな。いや、おそらくアイマが覚えてくれているだろう。
いずれ道を整備しないといけないだろうな。
「結界だ」
相変わらず景色は何も変わっていないように思えるのだが、ノクティアがそう言った。
「結界? 幻術? 何にもないように見えるけれど」
<<ロズウェル、「プリズン・ブレイク」だ>>
「おっしゃ。ようわからんけど、やるで。『プリズン・ブレイク』」
何も起きない。
<<失敗だ。成功するまで続けるんだ>>
ロズウェルが続けると、3回目の「プリズン・ブレイク」発動で早くも成功し、一瞬のうちに一部の木々が一列に消滅し、そこに整えられた道が開けた。
と、突然リンネが飛びついて抱きついてきて、僕は地面に倒れ込んでしまった。
結界が解けたのがそんなに嬉しいのか。
いや、違うのはわかっている。最近、同じようなことがあった。
見ると、やはり僕が立っていた場所の後方の地面に矢が……10本くらい刺さってる!!
強すぎる殺意だな。
そしてなぜ僕ばかり狙うんだ。
「ローバスト・プリズン」
ロズウェルがこちら側に結界を張る。
「こちらには敵意はない。話をさせてくれ」
僕が叫ぶ。
再び矢が飛んでくるが、「ローバスト・プリズン」の結界により、こちらに到達する前に弾かれる。
「頼む、話をさせてくれ。君たちを守りたいんだ」
すると今度はファイアーボールが大量に飛んできた。が、やはり結界に当たると一瞬で火の玉も消えていく。
どうしても攻撃を止めるつもりはないのか……
と、開けた道の奥から、一人の女性と、その後ろに一人の男性が姿を現した。
その二人は、ノクティアよりも褐色が深い肌のダークエルフだった。




