第六話 「ラスティ・ジャンク」の夜は更けていく
<<ユウマ、おまえはこれだ。選択肢はない>>
僕の目の前にあったのは、一振りの薙刀のような武器だった。
薙刀と異なるのは、柄の両端に刃がついていることだ。
<<両刃の変形グレイヴだ。攻撃力や使いやすさは考える必要ない。今のおまえはディストーションを貯めなければ何もできないから、とにかく少しでも長くケイオス・ライオットの時間を稼ぐことを考えないといけないからな。それを振り回して牽制するんだ。両刃だから隙も減らせるだろう>>
ちょっとかっこいいと思ったのに…無様に振り回すだけになるのね……
手にするとずっしり重かった。こんなのずっと振り回せるのか??
「リンネはどうする?」
<<リンネはカランビット・ダガーだ。軽量でグリップがしっかりあって両刃の湾曲したダガーだな。わからなければ店員に聞くんだ>>
僕はリンネの好みを聞きたかったんだけど……
僕たちはアイマに言われるがまま、それぞれの武器を購入した。
<<ステータスを見ておこう。新しく取得したスキルも再確認だ>>
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パーティー名: ラスティ・ジャンク
冒険者ランク: E級
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名前: ユウマ・ブラッドランス
Lv.13
ジョブ:愚者
HP 78/78 MP 6/6 / 攻27 防17 速10 知2
スキル:
・〈スタンブル〉〔つまずかせる/必中・消費0〕
・〈ケイオス・ライオット〉〔無秩序行動/消費0/命中・攻補正なし/歪み蓄積↑〕
・〈リリーフ〉〔慰めてわずかに士気向上、HP回復/消費0〕
・〈エンカレッジ〉〔励ましてわずかにスキル効果を高める/消費0〕
スキルポイント: 5
固有リソース:〈ディストーション〉(歪み率:0~100%/乗算バフ)
武器: ダブルエッジ・グレイヴ (攻+12)
防具: 布の服 (防+2)
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Lv.15
名前: リンネ
ジョブ:死神
HP 59/59 MP 46/46 / 攻41 防19 速52 知45
スキル:
・〈ハーベスト〉〔対象の魂を刈り取る/単体・命中率1%・消費MP10〕
・〈ソウル・プロテクト〉〔対象の魂を守ることでHP1を残し、攻撃に耐える/消費MP 10〕
・〈コロージョン〉〔呪いによる追加ダメージ+2・全ステータス-1/攻撃ヒットにより発動・消費MP 3〕
スキルポイント: 6
武器: カランビット・ダガー (攻+5・速+3)
防具: 皮の胸当て(防+4)
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<<うん、また戦略の幅が広がった。これで討伐依頼なんかでも受注できるな>>
「防具は?」
金貨は使ってしまったが、お釣りもあって、まだ銀貨が7枚残っている。
<<防具はとりあえずいらんだろう。基本ステータスに問題があるから焼石に水、金の無駄だ。攻撃を受けないようにするしかない>>
「じゃあ、服買おう」
僕もリンネも着のみ着のままで放り出されたので、まともな服の着替えもなければ、下着もない。
<<食事代とか宿代は残しておけよ>>
そして、僕らは服屋に行った。「ノーブル・エッジ」尾行のときに、アイマが完璧に道を記憶してくれていたおかげで、全く迷うことがない。
「リンネ、気に入った服があったら買いな」
「はい…でもお洋服を自分で買ったことがないので…」
「僕も女の子の服はよくわからないな…」
女の子と服屋にいるというシチュエーション自体が、前世含めて初体験だし…
<<仕方ないな、おまえらは…俺も服には興味ないが、トレンド把握しているから選んでやるか>>
おお、魔神様……
リンネがアイマセレクションの服を試着していく。
デザインとかはよくわからないが、確かにどれもかわいい……
値段もリーズナブルだったので、全て購入。
<<ユウマは何でもいいよな>>
「うん、平民っぽかったら何でもいい」
そうだ、僕は冒険者として生きていくんだ。貴族らしさはいらない。
貴族らしさなんてものも理解したことはないし、むしろ自由な感じがいい。
良い時間になってきたので、僕たちは(アイマが決めた)レストランに行き、食事をすることにした。
そこで僕たちは、キラーラビットのジビエっぽいステーキや、豆のスープを食べた。
お酒は飲めなかったが、ジュースで乾杯し、僕たちはこれからの冒険のことを話し合った。
討伐依頼やダンジョン攻略をして、お金を稼いで、いつかリンネの穏やかなスローライフの夢を叶えてあげたいと心から思った。
……できれば、僕もそこに一緒にいたいと少し思った。
アイマもそのときまだ一緒にいるだろうか。
アイマはいったいどうしたいのだろう。
バカな僕でも、何か目的がなければ、僕なんかに魔神がついてくるはずがないってことはわかる。
食事会はパーティー結成の決起会みたいになってとても楽しかった。
ブラッドランス家では、こんなに楽しい食卓になることはなかったな。
コンビニの弁当や惣菜を一人で食べるような生活だった前世でもほとんどなかったように思う。
貴族の生活でのものに比べたら、食事の質はそれほど高くはなかったけれど、美味しく感じられた。
食事を終えて、レストランを出ると、外はすっかり暗くなっていた。僕たちは宿を探しに出たが、また頼りになるアイマが宿屋を決めてくれた。まだ銀貨は余っていたけれど、そう遠くないうちにお金は尽きてしまうことは分かりきっていた。
<<明日から仕事だ。しっかり休んでおけよ>>
お湯が使える宿だったので、僕たちは体を洗った。
寝巻きは買っていなかったので、町で買った新品のシャツを着て寝ることにした。
湯上がりで薄着のリンネはなんだか艶っぽい……
固そうなベッド。寝心地はあまり良さそうではない。
いや、それよりも何より、猫耳の女の子と同じ部屋、いや、同じベッドで寝ないといけないのだ!
寝心地とか関係なく、寝付ける気が全くしない…
前世でも女の子と同じ部屋で寝るなんてことなかったのに……
別々の部屋を取った方が良いかもとか思わなかったわけじゃないが、今後の収入の見通しがたたない中で、散財する余裕はない…
「あの、私は床でも寝れますので、ユウマはベッド使って」
あれ、同じベッドで寝ようとしてたのは僕だけか…恥ずかしい……
「いいいいや、僕はそんなに疲れてないから、リンネがベッド使って良いよ」
<<いいから、とっとと寝ろ。二人とも疲れてるに決まってるだろ。狭いかもしれんが二人ともベッドで寝ろ。変なことで体力使うなよ。俺もいるんだからな>>
部屋の隅に座ったチビゴーレムが言う。
そうだった。人形みたいな姿でも人格のある魔神も同じ部屋にいるんだった。
がっかりしたような、ホッとしたような。
僕とリンネはモジモジしながらも二人でベッドのなるべく両端に寄って寝そべる。
アイマがいることはわかっていても、同じベッドに女の子がいるという状況は少し緊張したけれど、横になったら急激に眠気が襲ってきた。
……朝に「|愚者《フール」の天啓を受けて、魔素の降り注ぐガルム街道に捨てられ、奇妙な魔神を拾い、猫族の女の子を助けて、魔物を倒して、冒険者パーティーを結成して、人生で初めて女の子と同じベッドに寝て……こんな劇的な1日になるとは思ってもみなかった。
本当に長い1日だった。
明日から新しい人生の始まりだ……