第六十六話 美少年ゴーレム軍師登場
アーレンの調理技術とノクティアの生活魔法により、今晩の食卓は立派なものになった。
ワイルドボアステーキの香草焼きに、キノコやゼンマイのような山菜ソテー。調味料は手持ちの塩がメインだが、素材がとにかく美味しい。
魔素の森のものは魔素汚染があって食べられないという迷信があったが、迷信であることが証明された。
パンかご飯が欲しいな、というのが正直なところだ。ワイルドボアを食べていると、特にご飯が食べたくなったが、この世界で米を見たことがない。
ちょっとそんな欲が出てきてしまったが、食事は大満足だった。
食事を終えて、それぞれに個室を割り当て、その日は泥のように眠った。
硬いベッドで寝たため、翌朝は体が痛かった。
今日はアーレンに布団を作ってもらおう、と心に決める。
すると、屋敷のドアをノックする者がいる。
こんなところに来客?
ロズウェルの「ローバスト・プリズン」を破った者がいるのか?
それとも敵として認識されなかったのか?
「おはようございます! チャップです」
チャップか! 戻るのが早いな!
僕はホールに行き、屋敷のドアを開ける。
そこにはチャップともう一人見知らぬ人物がいた。少年なのか少女なのかわからない中性的な顔立ちだったが、作り物のように整った賢そうな容貌だ。
「早かったな、チャップ」
「はい、高速移動で帰ってきました」
「こちらは?」
<<アイマだ>>
「え!?」
アイマだ。あのチビゴーレムがこんなに立派になったのか!
一瞬の戸惑いも忘れ、僕は思わずアイマを抱擁してしまう。
「帰ってきてくれたんだな!」
<<すぐ帰ると言っただろう>>
アイマから離れ、改めてアイマの姿を見る。
「でもなんでまたそんな姿になったんだ?」
<<器を変えただけだ。転生前も厳密には人間ではなかったんだが、その前の人間のときの姿に近いデザインでブロックにゴーレムを作ってもらったんだ。以前、依頼しておいたものがようやく完成したんだ>>
ブロックーードワーフ職人のブリックスの師匠だということだったけれど、すごい腕なんだな。ほとんど人間みたいだ。
「ちょっと情報が多くてよくわからないけれど、転生前はそんな感じの姿だったんだね」
<<……まあいい。この姿で動けるのは魔素濃度の高いこの森の中だけだ。大気中の魔素をマナに変換して動力源にしているからな。遠征するときはまたチビゴーレムだ>>
「そうなんです。魔素の森に入ったら急に動き出してびっくりしましたよ。チビゴーレム人形もあります。これは旦那が持っていてください」
チャップがなじみ深いチビゴーレム人形を差し出してきた。
<<森の外に出るときは、また以前のようにそのミニゴーレムを通して映像を確認して音声を送る。携帯電話みたいなもんだな>>
「ケータイデンワ? そんなスキルがあるんですか?」
「まあ、そうだね」
<<すでに屋敷も建てて順調そうだな。他のメンバーも元気か?>>
「ああ、元気だよ。特にアーレンが頑張ってくれてね。こんな屋敷が1日でできたんだよ」
<<ほう、「ジョーカー」の力をさっそく使ったか>>
「うん、『ジョーカー』のスキルはすごいよ。失敗したら失敗しただけ成功が大きくなって帰ってくるからね。この領地では、頑張った人が頑張っただけ報われる社会ができそうな気がするよ」
<<なるほど。揚げ足を取るようで悪いが、その場合、頑張らない人は報われない社会になるのか?>>
「え?」
<<厳しいことを言うようだが、世の中には頑張ることすらできない者だっている。領主だったらそこまで視野を広げてほしいところだ。「ジョーカー」は誰であれ、笑わせる存在であるべきだ>>
「……うん、そうだね。確かにそうだ。ちょっと浮かれすぎちゃってたな」
本当にアイマの言うとおりだ。誰一人取り残さないような社会を目指さないといけない。
<<あとな、今まではパーティーだけの話だったから言わなかったが、ディストーションには「反動の反動」があることも気をつけろよ。これから仲間や領民が増えるから、それがコントロールできなくなる可能性があるから事前に警告しておこう>>
「怖いな。どういうこと?」
<<大きな成功をすれば、どこか別の場所でひずみが出るんだよ。俺もそれがどこで出てくるかは予見できないから、成功したときこそ油断するなということだ>>
僕は昨日、屋敷が建った後に矢に貫かれかけたことを思い出した。そういうことなのだろうか?
今後はいいことがあったら、より気を引き締めよう。
<<皆を集めてくれるか? 今後のことを話そう。いくつか俺のほうで情報も集めたから、その話をしておきたい>>
「うん、わかった」
美少年ゴーレム軍師始動だな。




