第六十五話 食事はできるのか!?
アーレンが家具製作をしている間に、僕たちは食材を調達することにした。
携帯食の乾燥パンや干し肉はあるのだが、今後を考えると食料を自給する方法は確立しておかなければならない。
いずれは農耕や畜産もしたいところではあるが。
ロズウェルが「ローバスト・プリズン」で結界を張ってアーレンの作業を守るために残り、僕とリンネとノクティアは、狩りと山菜採集をすることにした。
ノクティアは魔素の森に住んでいただけあって、食料についての知識が豊富だった。
ただ、狩りの道具はアヴィスヴォイド教団の襲撃を受けたときに住処に置いてきてしまったようなので、狩りはリンネ頼りとなる。
ノクティアも魔法で獲物を倒すことはもちろんできるのだが、例えば「ヘル・フレイム」では焼けすぎて食べられなくなってしまうのだ。
そのため、リンネの狩りのかたわら、ノクティアは山菜を集めることになった。
タンパク源のおすすめはワイルドボアだとノクティアが断言するので、その狩りスポットに移動した。
スポットに着くと、数分と経たずに、3メートルは超えるかというくらいの巨大な猪のような容貌のワイルドボアに遭遇した。
リンネがその首を斬り落とし、瞬殺だった。
狩りが終わってしまった。
と思っていたら、リンネがものすごい勢いで抱きついてきて、僕は倒れてしまった。
そんなに狩りの成功が嬉しいのか。
「危なかった」
リンネが言う。
周りを見渡すと、僕が立っていたところの後方の地面に、斜めに矢が突き刺さっていた。
どういうこと!?
「これは……」
ノクティアが矢に近づき、確認する。
「呪毒がかけられた矢だ」
呪毒って危ない響きしかないな。
パーティーのメンバーが強すぎるので勘違いしがちだが、僕だけは単体では圧倒的に弱いので、そんなものをくらったら即死ですよね?
リンネはかばってくれたのか。
「助かったよ。ありがとう、リンネ」
敵は視認できないが、おそらくもう逃げてしまっただろう。
矢が使われた以上、魔物ではなく、知性の高い人間の仕業だろう。この魔素の森に住む住人か、あるいはアヴィスヴォイド教団のメンバーがまだこのあたりをうろついているのだろうか?
サーチスキルがあるロズウェルを置いてきてしまったので、これ以上の捜索も難しいだろう。
僕たちは警戒しながら、ワイルドボアの胴体を(主にリンネの膂力で)引きずって足早に屋敷へと戻っていった。
そんな状況ながら、ノクティアは山菜をちょくちょく採集していた。
屋敷に戻ると、アーレンとロズウェルが木材を屋敷内に運んでいた。組み立ててしまうと運ぶのが難しいベッドやテーブル類は、各部屋で組み上げるらしい。
すでにだいたいの家具は揃ったようで、残った木材は少なかった。
「異常はなかったか?」
木材を運ぶのを手伝いながら聞く。
「あったで」
えぇ!?
「あったの!?」
「侵入しようとしたやつがおるな。『ローバスト・プリズン』が検知しよった。さっそく領主様が狙われとるな」
やはり僕は狙われているのか……
「心配すんなや。魔素の森に魔物だとかヤバいのがいろいろいることは最初からわかっていただろう? 領主なんだから、どんと構えとけよ」
「いや、怖いって」
「『ローバスト・プリズン』を建物周辺一帯にかけといたるから大丈夫や」
「うん、それはありがとう」
家具の準備が一通り終わった。
僕は大したことをしてなかったはずなのに何かとても疲れた。
「食事にしよう……」
と思ったが、ワイルドボアを狩り、山菜を採ってきただけで、食べられるわけではないことに今さら気づき、愕然とし、さらにどっと疲れが出た。
「料理できる人いるかな?」
聞くだけ聞いてみる。
「食材を焼くのなら私ができる」
ノクティアが言う。
「いや、ヘル・フレイムは食材焼くというより、燃やし尽くすだろう?」
ふっとノクティアが笑う。
「私が何百年この森で生きてきたと思っているんだ?戦闘スキルとは別に生活魔法も使えるに決まっているだろう?」
「おお、そうなのか? アーレンも『万能・職人』の料理スキルとかある?」
「『万能職人』ジョブに料理スキルはないです」
そうか、残念。
「でも料理は得意です。仕事をさせてもらえなくて賄い作ることが多かったので」
どうリアクションしたらいいんだそれ? 今の状況では朗報ではあるけれど。




