第六十四話 家具は作れるのか!?
アーレンが最後の組み立てスキルを発動すると、山になっていた木材が自律的に動き出し、柱が次々と地面に突き刺さっていった。
続いて壁の部材が張られていき、ドアや窓ガラスがはめられ、屋根ができていき、とそれぞれの場所に適切な材木が固定されていく。
「魔素を多く吸収した木は内部でマナを生成し、丈夫に育つと言います。いい木材が使えて組み立てスキルも完璧に機能したので、強度も十分だと思います」
あっという間に組み上がった広大な木造建築は、装飾はなくシンプルなものの、石造りの貴族屋敷のように威風堂々としており、堅牢な印象を受けた。
想像をはるかに超えた出来だ。
もちろんアーレンがメインで建てたのだが、リンネ伐採やノクティアの整地なしでもできなかった。
誇らしいチームだ。
それに、アイマが「愚者」ジョブが昇格すると「化ける」と言っていた意味がわかってきた。「ジョーカー」は、どんなポンコツでも失敗をコツコツ重ねるたびに大きな成功を約束するんだ。
失敗を笑い飛ばし、成功に大笑いして喜ぶような、そんなチートジョブなんだ。ポンコツでも成功できる、このコンセプトは僕の領地にふさわしい。
「失敗を奨励し、挑戦する」
これを領地の基本理念としよう。失敗をしてもやり直せる、やり直しがもっと大きな成果を生む。
「中を見てみようや」
ロズウェルが提案する。
そうだ、建物が建っても、まだすぐに生活ができるわけではない。
必要なものを確認しなければ。
屋敷のドアを開くと、新しい木の匂いがした。
まずは屋敷のホールで、目の前には2階に上がる階段があった。階段の左右には、1階の各部屋へと通じる通路が見える。
「2階には8部屋、1階には2部屋と、領主の執務室、他の方たちの執務室に会議室、キッチン、食堂、お風呂があります」
「お風呂!?」
それは夢のような響きだな。
「はい、お風呂です。お湯を沸かす人を雇ってからになると思いますが」
なるほど、それは課題だな。水辺が近いとはいえ、大量の水を運んで、お湯も作る方法を考えなければならないな。
それぞれの部屋も十分な広さで天井も高く、開放的で、仕事の生産性も上がりそうだ。
「各個室にベッドが必要だね。会議室や食堂には大きなテーブルや椅子が必要だし、執務室にも机と椅子が必要だね。キッチンには調理器具もいるな。まだまだ用意しないと生活できないね」
「任せてください。まだリンネさんに伐採してもらった木材が余っているので、すぐに作ります」
屋敷の外に戻り、アーレンが再び作業を始めた。
するとまたアーレンの「あれ? あれ?」の声が聞こえてきた。
もうバフは時間切れか。いびつな木材が量産されていく。
とても微笑ましい。誰も人の失敗に目くじらを立てず、むしろ期待を膨らませてくれるなんて、素敵な社会になりそうだ。




