第六十三話 ポンコツ「万能職人」
「実は『万能職人』って何でも作れるんですけど、全てが中途半端なんです……ブリックスの親方は、やっと工房のお荷物を追放できたと思っているはずです」
アーレンが申し訳なさそうに白状する。
あのいびつな窓枠……柱か……でも、うまくいった方だって言ってたよな……おそらく僕の「ユー・アー・ジョーク」のパッシブ・スキルでかなりスキル効果は上がっているはずなのだが……中途半端どころか、ゴミスキルじゃないか。
ますます僕の「愚者」スキルに近いものを感じ、失望感よりむしろ親近感が高まった。
たとえポンコツだろうと絶対に見捨てないのが、この領地のポリシーだ。そう、そもそも領主の僕だって超ポンコツの「愚者」なのだ。
「いや、そんなことないよ。見込みがあるから工房に残してくれていたんだよ。僕たちも生産職がいないから、アーレンがいてくれて助かるんだ」
しかしどうしたものか……戦闘ではないから僕がディストーション・レートを溜めて、スキル効果バフをかけるということもできないし、それ以前に領主が常に生産現場を監督するというのも無理な話だ。
「あの、練習して頑張りますので……」
そう言って、アーレンはまたノコギリを取り出したり、スキルを使ったりする。
頑張ってくれるのはありがたいが……ここに住むのは何年後になるのだろうか……
アーレンには申し訳ないが、現実的に、もっと職人を探すべきか。
それも時間とコストがかかってしまうだろうが。
「何本か切っておいてあげるね」
リンネが練習用に追加で5本伐採した。
他の皆の時間ももったいないから、リンネには伐採とアーレンの護衛をお願いするとして、他のメンバーでできることを考えるか。
僕はポンコツだから家を作る手伝いもできないし、職人探しも交渉もできないし、交渉ができそうなのはロズウェルか。ノクティア一人でヒト族の町に行かせるのは不安だしな。どうしよう……
と考え込んでいると、
「うわっ!」
とアーレンが奇声を上げた。
「どうした? 魔物か?」
見ると、見事にまっすぐで立派な柱ができていた。
目を疑った。
「何? どういうこと? もうそんなに上達したの?」
尋常じゃない上達ぶりだろう。
「んなわけあるか!」
とロズウェルがツッコむ。
「ユウマのパッシブ・スキルの効果だ。『ジョーク・ラヴァー』が、アーレンの「失敗」のたびにディストーションを蓄積して、ついに「成功」したんだ。見たところ、相当な失敗をしているから、持続時間も長いはずだ。一気に作業を進めたほうがいい」
ノクティアが解説してくれる。アイマ不在時に知力の高いメンバーは心強いな。
失敗がディストーションとして蓄積されていってスキルへのバフがどんどん高まっていくのか……諦めずに続ければ必ずいつか成功するなんて夢があるな。
「アーレン、MPの続く限り、作業を進められるか?」
「はい、ワシのスキルはMP消費量は少なくて、MP量だけは自信があります」
目を輝かせたアーレンが答える。
「よし、じゃあ、リンネもじゃんじゃん木を切ってくれ」
リンネも嬉しそうに頷く。人の成功を一緒に喜べるいい子だ。
「オールラウンド・デザイン」
アーレンがまた別のスキルを発動したようだ。
「これをやらないと無駄に柱を大量に作ることになってしまうので。先ほどいただいた指示を思い浮かべて設計を出力しました……え? すごい建物の設計図だ。こんなのできるのか?」
「いや、普通でいいんだけど」
スキルで出力された設計図が僕には見えないので、よくわからない。本人にしか見えないのだろう。
「あとは設計情報をもとに木の加工をしていきます」
そう言って、アーレンが「オールラウンド・加工」を次々に連発していくと、木々が次々に加工され、そのたびに美しく幾何学的なレベルで整えられた木材が生産されていった。
「整地しておくか。『ヘル・フレイム」
ノクティアが魔法で切り株や雑草を一度に燃やし尽くし、そこにきれいに整地された土地ができた。
アーレンが作業を続けていくと数十分もたたないうちに、ちょっとした山くらいに木材が積み上がった。
周りの木々があらかた伐採されたため、見上げると、暗かった森に太陽の光がしっかりと届くようになっていた。
「窓ガラスも必要ですね。『オールラウンド・プロセッシング』」
ガラスの素材はどうするのかと思ったら、みるみるうちにアーレンの手元でガラスが生成されていく。魔法のようだ。
「ガラスは素材がなくても作れるのか?」
「いえ、地面に落ちている使えそうな砂や石灰を使っています」
元素レベルで加工してるの!? これぞ、「万能職人」といったところか。
「部材はそろいました。一気に組み上げます。『オールラウンド・ビルド』」




