第六十二話 家は建てられるのか!?
領地に来る前に討伐したアースドラゴンの主要な素材は、以前の約束通り、ブリックスのドワーフ工房に卸した。加工して販売した売上の3割をジャンク家に納めるという条件で、いったん無償での引き渡しとした。
鱗をはじめ、かなり多く残ったドラゴン素材や、ワイバーンの素材は、一部を自分の領地で使い、それ以外はチャップが売りさばくことになった。
チャップの貿易商としての初仕事で、張り切っていた。
ブリックスのつてで、ドワーフ王国のマーケットに紹介してもらい、チャップの最初の貿易相手はドワーフになった。
図らずも、アイマとの約束通り、チャップはドワーフ王国を目指すことになったのだ。アイマこうなることを初めからわかっていたのだろう。
いったんチャップとは別れ、僕たちの帰還を待ってくれていたマーガレットの馬車で、ウィルクレストの町まで戻り、そこからは徒歩で魔素の森までやってきた。
現在、領地の魔素の森に来ているのは、冒険者パーティー「ラスティ・ジャンク」の4人ーーヒト族で「愚者」ジョブの僕、猫族で「死神」ジョブのリンネ、ヒト族の「吊られた男」ジョブのロズウェル、ダークエルフ+ヒト族で「悪魔」ジョブのノクティア。それからドワーフ族+ヒト族で「万能職人」ジョブのアーレンを加えて、計5人だ。
もはや親友と言っていいチビゴーレム人形の自称「智の魔神」アイマが、ここにいないのは寂しかった。
ともあれ、まずはこの5人で領地の基盤を作っていかなければならない。
戦闘系ジョブ中心の「ラスティ・ジャンク」であるため、どうしても生産職「万能職人」のアーレンに期待がかかるところではあるが……
「まずは家が欲しいな……」
まずは僕たち5人の住む場所が必要だが、執務をすることを考えるとそれなりの広さは要るだろう。もともと魔素の森に住んでいたノクティアの案内で、水場の近くで、住むには良い場所を見つけはしたのだが、建物はゼロから建てなければならない。
アーレンだけでどうにかなることではないだろうし、時間もかかることだろう。幸い冒険者として稼いだお金だけはそれなりにある。
「しばらくはウィルクレストで宿をとって、通勤生活やな」
ロズウェルが言う。それが現実的だろう。
「アーレン、君に建築の指揮は取ってもらおうと思うけど、どれくらいの職人をどれくらいの期間雇えばいいか考えてくれるか? 最低限、この5人と何人かの客人が泊まれて、執務室や会議室があるといいんだが」
「ええ、はい、わかりました……」
「……何か考えはあるか?」
「ああ、はい、そうですね……まずは材木を集めないといけないですからね……そうですね……」
うん? 何か歯切れが悪いな。
「私、できると思うよ」
リンネが近くの木に歩み寄り、赤竜の打刀を一閃する。
木はミシミシと音を立て、一気に倒れた。
刀の誤った使い方ではあるが、さすがにドラゴン素材なので刀が傷むこともないだろう。高い攻撃力がこんなところでも役に立つか。
アーレンは呆然と倒れた木を眺める。
「とりあえず木こりは要らなさそうだな。アーレン、この木は使えそうか?」
「ああ、はい、ちょっとやってみます」
アーレンが担いでいた荷物袋をごそごそと探り、ノコギリを取り出し、構える。
職人っぽい感じだ。腕前を見せてもらおう。
アーレンが木に近寄り、ノコギリを引く。
が、何か動きがぎこちなくないか?
アーレンは懸命にノコギリを押しては引いてを繰り返すが、全然切れている感じがしない……
「あれ? あれ?」と何度も繰り返しながら、アーレンは作業を続けるが、ついに諦めて手を止める。
「すみません、ちょっと調子が悪いんで、スキルを使ってもいいですか?」
うん?? ブリックスにスキルに頼りすぎるなと言われたのを真面目に守ろうとしていたのか。
技術に自信がないからスキルに頼ることが多かったのかもしれない。
「もちろん、拠点を早く作りたいから、スキルでも何でも使ってくれ」
「ありがとうございます」
いや、別に礼を言われることではないような……
「オールラウンド・プロセッシング!」
おお、何かすごそうなスキルだ。
「いつもよりうまくできました!」
木の一部が切り取られ、アーレンの手には切り取られた塊が……ものすごいいびつな……窓枠?
ちょっと芸術性が高くないか?
「いや、あんまり凝った芸術的な感じにはしなくていいよ。まっすぐで安定した感じの窓枠にしてほしいんだけど…….」
「あの……これ、柱なんですが……」
「もっと芸術性はいらんわ! 建った瞬間に倒れるやろ」
ロズウェルがツッコミ、大笑いする。
アーレンの技術もスキルも「アレ」だと、師匠のブリックスが言っていたことを思い出す。
アーレン……こいつは思った以上に「アレ」ーーポンコツだ……




