第五話 パーティー結成と冒険者登録
「町に着いたけど、アイマはどこに行きたいの?」
<<冒険者ギルドに行こう>>
「何で? チビゴーレムが冒険者登録なんてできないよ」
<<違うわ。おまえらの冒険者登録をするんだよ>>
「ええ? 何で?」
<<何でも何もないわ。無職の貴族崩れと猫族の娘が他にどうやって稼ぐんだ?>>
僕は一瞬考えてみたが、もちろん何も浮かばない。貴族以外の仕事なんて考えてもいなかった。いや、貴族の仕事もよくわかっていなかった。
「いや、それはそうだけど、アイマは行きたいところないの?」
<<当面はおまえたちの面倒を見ることに決めた。その方が俺の目的を達成するためにも良いと判断した>>
「目的って何?」
<<教えない>>
「何だそれ」
<<悪いようにはしない。いいからギルド行くぞ。他の選択肢はない>>
「場所知らない」
リンネも首を振る。
<<冒険者っぽいやつについていけばそのうち着くだろ>>
「あっ」
と、リンネが小さく声を上げた。
「どうしたの?」
「あの人たち、冒険者パーティーの『ノーブル・エッジ』……私をガルム街道で放っていった人たち」
リンネの視線の先を見ると、四人の男女がいた。見た目から察するに、男の剣士、タンク、女性の魔法使いに僧侶か。装備も見るからに立派で強そうだ。
アルフレッド・ゲセナーお付きの冒険者。
泥だらけの貴族服の貧相な僕と、(失礼ながら)ボロの胸当てと軽装のリンネのとを比べてしまうと、冒険者としての格が違う気がする。
<<つけていこう。ギルドに行くかもしれない。リンネはユウマの後ろに隠れるんだ>>
そうだな。リンネが見つかったら、生きていることがバレてしまう。
「ノーブル・エッジ」の面々はブラブラ歩きながら、武器屋、防具屋を物色し、道具屋でポーションらしきものをいくつか購入、屋台や服屋やらをハシゴして、その後ようやく冒険者ギルドに到着した。
大きなレンガ造りの建物で、外にもたくさんの冒険者パーティーが溢れていて活気が感じられた。
ちょっとした感動だ。
貴族だった僕がこんなところに来ることがあるとは思ってもみなかった。
<<やつらを待っている間に、武器でも買っておきたいところだが、買う金がないな。魔物の素材をギルドに卸さないと>>
「うん、僕も持ち合わせはないや」
「私は少しありますよ」
いやいや、一生懸命貯めたお給金は大事に持っておいて。
<<待とう>>
ほどなく「ノーブル・エッジ」がギルドから出てきた。
四人の姿が見えなくなるのを待って、僕たちはギルドの建物に入っていった。
中にも冒険者たちが多くいて、熱気があった。
<<ウィルクレストの冒険者ギルドはかなり大きいから人が多いね。さあ、受付に行こうぜ>>
受付カウンターは5か所開いていたが、どこも列になっていて、僕たちも並ぶことになった。
僕とリンネがそわそわして、何かよくわからないおしゃべりをしていると順番が回ってきた。
ゴツゴツした冒険者たちを相手にしているような感じのしない小綺麗な受付嬢で、「アリア」と書かれた名札をしていた。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
作った感じの営業スマイルがすごいな。
「あの……冒険者登録と素材の買い取りをお願いしたいのですが……」
なんか口の端が引き攣りましたかね。
こんなに忙しいのに面倒な用事持ち込むなって感じですかね。
「冒険者登録票に必要事項をご記入ください」
手渡された登録票を眺めて、最初の項目で早くも躓く。パーティー名……考えてなかった。よくわからないおしゃべりしている間に考えておくんだった…
「さっさとしろよ」
後ろに並んでいたごっつい武闘家っぽい男に威嚇されて、頭が真っ白になる。
すみません、急ぎますんで、と頭を下げる。
「なんだ、そのガラクタ」
胸ポケットのアイマが目に入ったのか、男が言った。
<<「ラスティ・ジャンク」にしよう>>
男がビクっとする。腹話術です、ハハ、と言うと、男の表情が怒りで険しくなっていく。
「ご記入の間に、素材の鑑定をさせていただきますね」
危険を察したのか、アリアさんが割って入ってくる。この状況で喧嘩でも始まったら、余計な仕事が増えてしまうのだろう。
できる受付嬢だ。
僕は布袋から集めた素材を出す。
・ワーウルフの爪 x 3
・キラーラットの牙 x 4
・ゴブリンの鼻 x 7
・スライムのコア x 10
「本当におまえらがワーウルフ倒したのかぁ?」
男がまた絡んでくる。
はい、すみません、となぜか謝ってしまう僕。
登録票を書かせてください…
名前やジョブなど必要事項を記入していく。
身分などが聞かれないのもありがたい。
それが意味するのは、冒険者社会は完全に実力でしか評価されないということでもあるのだろうけれど。
記入は終わり、アリアさんに提出する。
「ではこれでE級冒険者として登録完了です。掲示板に依頼票がありますので、受託するものが決まりましたら、また受付にお持ちください」
もう終わり? ずいぶん簡単だな。
「それから素材の査定結果ですが、こちらになります」
アリアさんがコインを手渡してくる。
金貨1枚、銀貨4枚、銅貨70枚。
横にいたリンネが口をあんぐりと開いて固まっている。
すごいの、これ?
「金貨なんて初めてみました……というか銀貨も初めてです……」
ああ、そうなんだ……
<<依頼は明日にしよう。その金で武器を揃えて、今日は休んだ方がいい。疲れただろう?>>
緊張が解けて、一気に疲れが出てきた。
武器も明日でいいのでは??