第五十八話 ディアウッドの町
チャップの予測どおり、ディアウッドの町には日暮れ前に到着した。
幸いアースドラゴンはまだやってきていなかった。チャップの高速移動のおかげだ。
だが、町は大混乱に陥っていた。
アースドラゴンが町に向かってきていることはすでに知られているのだろう。チムニーロックの悲劇から、ドラゴンが町を襲ったらどんな惨状になるのかも、多くの人が認識しているはずだ。
人々は慌ただしく避難を進めており、怒声や子どもたちの泣き声などがそこかしこに聞こえた。
中には避難が難しい病人や老人などもいるようだ。
「こりゃあかんな。ドラゴンが来たらやられてまう。チムニーロックでは予告も無しに来たから皆やられてもうたけど、ここは避難の時間があっただけマシか……」
ロズウェルが新スキルの「プリズナー・サーチ」を発動する。
これも僕の「ユー・アー・ジョーク」のスキル効果バフのおかげで、かなり広い範囲の索敵ができるようだ。
「おわっ!」
ロズウェルが奇声を発する。
「どうした、ロズウェル?」
「あかん。めっちゃ近いやん。しかも一匹じゃないで。どういうことや」
「なんだって?」
アースドラゴンは一匹でも強敵だぞ。それが何匹もいるのか!?
「動きが変や。一匹はまっすぐ向かってきているんやけど、他に百匹くらいが回ったり蛇行したりしよる」
百匹? アースドラゴンの取り巻きか? まさか他の魔物も集まってきているのか?
「町に到達させてはダメだ。皆、行こう。ロズウェルは先導してくれ。アーレンとチャップはどこかに避難していてくれ」
アイマが不在なのに、最悪の状況だ。
僕たち4人だけで対応できるのか……?
だが、やるしかない。やらなければチムニーロックの二の舞だ。人々が魔物に虐殺され、町が破壊されるのを黙って見ていられるわけがない。
町を出て、ロズウェルを先頭に、僕たちは敵に向かって走る。
町を出てすぐに、遠目に魔物たちが見える。
地面を這うように歩いているアースドラゴン。まだ距離があるものの、足を一歩進めるたび、地響きがしているのが感じ取れる。巨大な体躯をしているのは間違いがない。
そのアースドラゴンの周囲で飛び回る無数の何か……コウモリのような姿にも見えるが……コウモリほどのサイズなら、この距離から翼まで視認できるはずがない。
「ワイバーンや……」
ロズウェルが呟いた。
ワイバーン。翼竜と呼ばれ、ドラゴンの一種とも言える。
もちろん高い戦闘力がある上に、飛行により上空から自在に攻撃してくる。
地上には魔物の中でも、確認されている限り最上位種の属性付きドラゴン。それに準じる力と凶悪さを持つワイバーンが上空に百匹……




