第五十七話 御者チャップ
チャップは王城に待機していたようで、無事に見つかった。
僕を見るなり、駆け寄ってくる。
「また会えて嬉しいです」
僕たちは握手を交わした。
「僕もだよ。いてくれてよかった」
「ところで、子爵様になられたようでおめでとうございます。今後、私はジャンク子爵家で働くように言われたのですが……何か私が王城の御者をクビになるようなことをしたんでしょうか?」
深刻そうな顔をするチャップに思わず吹き出してしまった。
「な、何がおかしいので?」
「僕が君をスカウトしたんだ。ヴァイス卿に頼み込んでね。心配しなくていい。今以上の給料は出すし、うまくいけば何倍も何十倍も何百倍も稼げるかもしれない」
チャップの顔がぱっと明るくなる。
が、また少し怪訝な顔になった。
「そんな夢のようなことがあるので? ただ、もしまとまったお金ができたら、貿易商になりたいとお話ししたと思うのですが……」
「その貿易商になってほしいんだ。ジャンク家の領地からそれを始めてみたらいい。もちろん必要なものは全て用意するつもりだ」
またチャップの顔が明るさを取り戻す。
ちょっと面白いな。
「夢を見ても、なかなかそんなに都合のよい機会はあるものでもないのでありがたいです」
「それは良かった。でも今は急がないとな。領地に赴任する前にアースドラゴン討伐しなければいけないんでね。ディアウッドの町に向かいながら続きを話そう」
「はい、ユウマの旦那様!」
旦那様って……くすぐったいな。
僕たちはチャップの馬車に乗り込んで、ディアウッドの町に向かった。
戦闘職でないアーレンは残ってもらおうかと思ったが、ドラゴンの素材を見たいと言って聞かなかったため、連れていくことにした。
まだ討伐できると決まったわけではないのだが……
戦闘中はチャップとともに避難しておいてもらうことになるだろう。
チャップは馬車を全速で走らせた。恐ろしいほどの速度だった。
チャップは「交易商」ジョブで、そのジョブを活かしたいというのも貿易商を目指した理由らしいのだが、そのスキルの一つに「ファスト・フレイト」があり、そのスキルを発動したらしい。
ただ、本人もびっくりするほどの速度が出てしまっていた。新幹線を思い出すようなスピードだ。
「ジョーカー」の「ユー・アー・ジョーク」の効果だろう。仲間に常時10%ディストーション・スキル効果バフが有効になっているのだ。
パーティーメンバーだけでなく、お互い仲間と認めたら効果が出るようだ。
ディストーション・レート100%だったら全員振り落とされて、命が危ういだろうな……
馬車もちょっとした衝撃で壊れてしまいそうなものだが、それもチャップのスキルの効果で大丈夫なんだとか。
ディアウッドは王都からそれなりに遠い場所なのだが、これなら野営せずに日暮れ前までに間に合うだろう、とのチャップの見立てだった。
高速で移動しながらも、チャップはジャンク領の貿易について、いろいろと尋ねてきた。風圧がすさまじく、なかなか聞き取りにくくはあったが、大声で話し合ってなんとか会話ができた。
ジャンク領が魔素の森一帯だと伝えると、チャップは少し黙ってしまったが、「『ラスティ・ジャンク』なら魔物の素材がたくさん取れますね。まずは素材の流通から始めましょう」と笑った。
さっそくよい意見をもらえたな、と思った。
死地に向かっているかもしれないというのに、チャップのおかげで過度な緊張をせずに済んだ。
希望を持つということが、とても前向きな気分にさせるものなのだと学んだ。




