第五十五話 職人の加入・魔神との別れ
<<ブリックスに、彼の師匠のブロックに俺を渡すよう言ってくれ。おまえたちとはしばらく別行動したい>>
「え?」
先ほどまでパーティーのステータスを見て高揚していたのに、一転して不安が襲う。
アイマなしで僕にまともな判断ができると思えない。
<<少しの間だけだ。心配するな。ユウマはリーダーだとか子爵だとかにこだわらず、皆にもよく頼れよ。あの、チャップというやつがいただろう? あいつをジャンク領の専属貿易商として雇うんだ。それからまずドワーフ王国のブロック工房によこしてくれ。魔物の素材を適当に積ませてな>>
僕は何か聞いておかないといけないと思ったが、ブリックスが戻ってきてしまった。
「こいつを連れていってくれ」
ブリックスの後ろについてきたのは、ブリックスよりも一回り大きい男で、少し若いドワーフのように見えた。
それでもブリックスと同じように長い髭を蓄えた精悍な顔には威厳のようなものがある。
「アーレンです。よろしくお願いします」
話し方からは生真面目な性格が感じられた。
「こいつはヒト族の血も引いていて、『オールラウンド・職人』のジョブとスキル持ちだから、たぶん、いや、きっと役に立つはずじゃ。ただ、技術的にはまだちょっとアレなんじゃが、わしとしてはスキルにも頼りすぎず確かな技術を身につけてほしいんじゃ。まあ、そのスキルもアレなんじゃが、とにかくいろいろ作らせてやってくれ」
技術もスキルもアレって……戦力的にいまいちなのをよこすつもりか?
追放された経験のある僕からしたら逆に親近感は湧くが……
「僕はユウマ・ジャンク。この『ラスティ・ジャンク』パーティーのリーダーです。僕たちの新しい領地でぜひ活躍してもらえればと思うので、よろしく」
僕はアーレンと握手を交わす。
「必要な道具は準備したのでいつでも出発できます」
アーレンが背中に担いだ大きな荷物袋を指で示す。
うん、大丈夫だろう。ブリックスはかなりの熟練だから、少しくらいイマイチでも「アレ」な感じになってしまうのだろう。
出発のときだ。
僕は、胸ポケットのチビゴーレムを取り出し、ブリックスに差し出した。
「ブリックスさんにお願いがありまして……これをブロックさんに渡してもらえませんか?」
ブリックスは僕の手のひらの上のチビゴーレムに視線を向ける。
「これは確かブロック師匠の作ったものじゃったな。返却するんじゃな?」
「返却といいますか……お渡しいただければわかると思います」
ブリックスが少し怪訝な顔をする。
「僕たちにとってとても重要なことなんです」
「ふむ、まあ、それくらい問題ない。ドワーフ王国には近々戻るつもりだったからの。お安い御用じゃ」
「助かります……」
「何か……寂しそうじゃな」
「はい、何度もこのゴーレム人形には助けられたんです。ブロックさんにお礼をお伝えください」
アイマとはしばらくの間、お別れだ。
そう思ったら涙があふれてきた。
不安な気持ちだからではない。ただ、寂しいのだ。いてあたりまえだと思っていた存在がいなくなることがこんなにもつらいとは知らなかった。
アイマだけではない。僕にはもう大切な仲間たちがいる。この仲間たちを決して失うことがないようにしなければ。
アイマを残し、僕たちは、僕たちの領地に戻ることにした。




