第五十三話 ドラゴン素材の武具
王都に来た目的は、爵位と領地以外にもあった。
一つは、ブリックスのドワーフ工房に依頼していた武具の受け取りだ。
僕たちが工房に行くとブリックスに満面の笑みで迎えられた。
「ドラゴンの素材はやっぱり最高じゃったぞ。ちょっと待つんじゃ。今持ってくるからの」
ブリックスは工房の奥に行き、すぐに戻ってくる。
鞘に収められた二振りの刀と、中サイズの真っ赤な盾がその手にあった。
刀をリンネに差し出し、盾をロズウェルに手渡した。
「すっかり没頭してしまったわい。しかし、ここまでの業物はそうそうできるもんじゃないからの、鍛冶屋冥利に尽きるわ」
リンネが鞘から二振りの刀を抜く。その瞬間、熱が立ち込めた。刀身は見るからに鋭い。
「レッドドラゴンの牙で打刀、爪で脇差を作っとる。強度も切れ味もすさまじいが、火属性の追加ダメージもあるぞ」
「軽い……」
刀を持ったリンネが呟いた。
「そうじゃな、強度の割に軽いのもドラゴン素材の特徴じゃな。嬢ちゃんの素早さを殺さず、特性に合った武器になったぞ」
「確かに軽いわ」
ロズウェルも盾の感触を確かめる。
「盾も同様じゃ。防御力もものすごく高いが、火属性耐性の追加効果があるんじゃ」
竜素材の武具だけで、パーティーの戦力の大幅アップが期待できそうだ。
「ありがとうございます。ついでにいくつか既製品を見ていってもいいですかね?」
せっかくなので、少しでも皆の特性を活かせる武具を揃えておきたい。
爵位ももらってお金もかなりあることだしね。
「もちろんじゃ。何だったら必要なものを見立ててやるぞい」
「僕には動きやすくてそれなりに防御力もある防具、リンネに素早さを上げられる効果のある防具、ロズウェルには防御にも使える武器、ノクティアには魔力を増幅させられる武器、防具をお願いします」
「覚えられんから一つずつじゃ。まずは……」
「僕に動きやすくてそれなりに防御力がある防具です」
「なるほどな。ちょっと待っとれ」
という感じで、ブリックスが一つずつ武具を見繕ってくれた。
「お代はいくらですかね?」
「いらんわ。サービスじゃ」
「え? いや、それは悪いですよ」
「いや、いいんじゃ。久々にいい仕事をさせてもらったからの。ただ、代わりと言っては何じゃが……」
「何ですか?」
「そのぉ、ドラゴンの素材をもっと持ってきてくれんかの」
ドラゴン素材調達の打診が来ることはすでにアイマが予測済みだった。そして、その対価が既製品の武具では割に合わない。
僕たちが要求するものは決まっている。
「わかりました」
そう言うと、ブリックスの表情がまた明るくなった。
「ですが、武具のお代は支払わせていただきます。他に条件がございます」
ブリックスの表情が少し曇る。
「条件とは何じゃ?」
「一人、職人をお借りできませんか?」
予想外だったのか、ブリックスは眉間に皺を寄せて、思案する。
「なぜ職人が欲しいんじゃ?」
「僕は爵位と領地をいただいたのですが、あいにくその領地には領民もろくにおらず、開拓に必要な人材を集めなければならないのです。もちろん今と同等かそれ以上の給料も払いますし、生活の面倒もこちらで見ます」
またブリックスがしばらく思案し、やがて口を開いた。
「わかった。わしの弟子で面白いやつがおるから、そいつを貸してやろう。あんたらとじゃったら、職人としてもよい経験ができそうじゃ」
「面白い」やつ? 「腕利きの」職人とかではないのか?
職人である以上、モノを作ることはできるだろうから、まあいいか。
「それはありがたい。ドラゴンの素材、任せてください」
ドラゴンがどこにいるのかは知らないが、そして僕たちがそのドラゴンを倒せる保証もないが、まずは職人の確保が優先だ。
「取引成立じゃな。準備させるから待っとってくれ」




