第五十一話 爵位と領地
あっという間にヴァイスが僕の爵位と領地の件の承認を取り付け、僕は子爵となった。
報奨金兼準備金として少なくないお金も受領した。王国の民の血税だ。無駄のないように役立てよう。
僕はブラッドランス家の名を捨て、「ユウマ・ジャンク」を名乗ることに決めた。
自虐的に聞こえるかもしれないが、僕にとっては誇り高い名前だ。
ヴァイスには「アヴィスヴォイド教団」のことや、彼らがヒト族を魔物化しようとしていることも報告した。
「魔族には強く言っておきますよ。『ラスティ・ジャンク』がいればどんな魔物も怖くないですがな。ははは」
これは口だけだな、と思った。
強者にはとことん下手に出るのがヴァイスだ。「強く」言うことなどできないだろう。
「魔物が怖いのではありません。人々が魔物化されること、そして古の魔族復活を恐れているのです」
マーガレット釘を刺した。それでもこの宰相が適切な対処をするとは思えないが、具体的な危機の意識を持たせておいたほうがよいだろう。
「古の魔族ですか……」
ヴァイスの顔が少し引き締まったように見えた。宰相であれば、さすがに千年前の歴史も認識しているであろう。
「古の魔族でも現代の魔族でも『ラスティ・ジャンク』の皆様には敵いませんよ。ははは」
表情を崩し空虚な笑いを返すが、ヴァイスは何かを考えているように思えた。
「僕たちも万能ではないです。ですから、僕は自分の領地を古の魔族にも対抗できる拠点できるような場所にしたいと思っています」
僕たちに期待してもらうのはけっこうだが、何でもかんでも簡単にできるとは思ってほしくない。
時間をかけて準備をしっかりしなければならない。それと、僕の領地づくりの邪魔をされたくない。
「それは頼もしいですね。王国としても必要なことは何でもしますので。何だったら古の魔族も傘下にしていただいたらよいですね!」
それが本音なのか……僕たちヒト族が古の魔族と同じ種族だということを利用できないかと考えているのか?
それによって現代魔族も凌ぐ力を得られるとでも思っているのだろうか?
「ご協力いただけるとのことありがとうございます、ヴァイス宰相」
これで言質を取ったと考えていいだろう。
王国の法律をしっかりわかっているとは言えないが、僕が作ろうとしている領地に、その法律が適しているとはとても思えない。
この王国のように、マジョリティであるヒト族と異なる種族を排除し、差別しようとする文化は僕は許容できない。
皆が分け隔てなく助け合うようでなくては、古の魔族のような強大な敵に立ち向かうことなどできないだろう。
何より、僕の領地では、それが誰であれ、一人として不幸になるような領民は生み出したくない。
待てよ……古の魔族は現在のヒト族と同族……アヴィスヴォイド教団は古の魔族・魔物を復活させようとしている……何かが引っかかった。
だが、今それをこの場で発言するのはよくないと本能が告げていた。




