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第四話 亜人

「ところで、何でまたこんなところにいたの? 女の子が一人でいるような場所ではないと思うんだけど?」


 何か事情があるに違いないだろう。


「私、捨てられたんです」


 僕と同じような境遇か……


「家族に捨てられたってこと?」


「家族には捨てられたのは1年前です」


「私は亜人ですし、家もすごく貧しくて…それで「死神」なんていう不吉な天啓を受けてしまったので、売られてしまったんです」


<<「奴隷の首輪」をしているね>>


「はい、そうなんです。それで、ゲセナー侯爵の家に奴隷として買われたんです」


 マジか……こんなに可愛かったらいろいろされたりしたんだろうか……


「ゲセナー侯爵はとても良い方で、奴隷とはいえ、そこまで酷い扱いは受けませんでした。もちろん仕事は大変でしたが、食事も寝床も与えられて、少しですがお給金もいただけて、その日暮らしでご飯が食べられないようなこともある猫族の里では考えられないような生活でした。料理や掃除も覚えさせていただいたので、ちょっとした夢を見ることもできました。猫族の里にはもう戻れないですが、いつかお金を貯めて、自然に囲まれた田舎でゆっくり過ごしたいと思っていたんです」


 ゲセナー侯爵……好感度上がるな。


「でも、ご子息のアルフレッド様が1ヶ月前に15歳になって天啓を受けてから、状況が変わってきました。お父様のジョセフ様は何というか優しすぎるというか、特にご子息には甘い方で、アルフレッド様は自由奔放というか……とてもわがままに育っていました。アルフレッド様は私にずっと目をつけていたようで、私を自分の専属メイドにするようジョセフ様にお願いされて、私はアルフレッド様の侍女になりました」


 そこでリンネが辛そうに俯く。


「アルフレッド様は私に何度も言い寄ってきました。もちろんお付き合いするとかそういうのとは違います……身分が違いますから。何というか、手籠めにしたかったのだと思います。奴隷の身分ですから、そういうことも仕方ないのだと思いますけれど、どうしても嫌で、何とかお断りしていたんです」


 僕のゲセナー侯爵家の好感度が急速に失墜しました。


「それで、アルフレッド様は私にいろいろと嫌がらせをされるようになりました。最初はささいなことでした。私の仕事のミスを執拗に責めたり、ありもしない噂を流したりされて……あまり気にしないように努めていたのですが、逆にそれがまた余計に気分を損ねてしまったようでして……それで、家の仕事はもういいからアルフレッド様のお抱えの冒険者パーティーの手伝いをするように昨日言われました。将来自立することも考えて日頃から鍛錬していたので、私も気まずくなってきたお屋敷を離れたいと思って、軽く考えていたんです」


 鍛錬してたんだ……通りで僕よりレベル高いわけだ…


「ウィルクレストの町から少し離れたところのダンジョンのアイテム探索に行くというので、このガルム街道を移動していたんです。この街道では良い噂を聞いたことがないので、少し嫌な予感はしていたんですが、最初は弱い魔物ばかりで簡単に対応できましたし、A級の冒険者パーティの方々と一緒だったので、問題なさそうに思っていました。それまでは私も褒められていて、すっかり油断してしまっていたんですね」


 リンネは悔しそうな表情を浮かべる。


「それが……私よりレベルが高いワーウルフが出てきた途端、私だけ残して他の方々が消えてしまったんです。たぶん私だけ対象から外して転移魔法で町に帰ったんだと思います」


「それで一人で戦っていたんだね」


「はい……そこにユウマさんに助けていただいたんです」


 と、リンネがハッと我にかえったような顔になる。


「もしかしてユウマさんも貴族の方ですか?」


 リンネの服に比べたら確かに上等な服を着ているから、さすがに気づいたか……


「つい数時間前までは確かに貴族だったけど、今は貴族じゃないよ。心配しないで。「さん」も丁寧語もいらないよ」


「そう……なの?」


 何言ってるかわからないよな……追放された奴隷でも平民でもなく、追放貴族だもんな……


「僕もリンネと似たような感じだよ。実は『愚者(フール)』の天啓を授かってね。そんなの貴族でありえないってさ、追放されたんだ。さっき変な踊り(ということにしておこう)してたのも愚者のスキルなんだ」


 すると、リンネはぷっと笑った。


「変なスキルね」


 笑顔がかわいいな。


 初めて愚者(フール)も悪くないか、と少し思えた。


「リンネは、これからどうするの? 何かあてはある?」


 そう聞くと、リンネはまた少し悲しそうな顔になる。


<<何言ってんだ。どうせ二人ともあてなんかないだろう? おまえらはパーティーを組むしかない。相性バッチリだぜ>>


 なんかノリが軽くなってないか??


 とはいえ、僕もそのつもりだった。一人じゃ心細いし。


「うん、もしユウマが良いならそうしたい……」


 僕は満面の笑みで頷く。


「もちろん良いよ。僕の方からお願いしようと思っていたんだ」


 また、リンネの顔がパッと明るくなった。わかりやすくて良い。


<<とはいえ、奴隷の首輪はちょっとやっかいだな。所有権がゲセナー侯爵家にある以上、あまり自由にはできないぜ>>


 何で水をさすかな、アイマ。


「どうにかならないの? 智の魔神ならなんかあるでしょう?」


<<そりゃ、あるけど、ちょっと手間がかかるな>>


「何でもいいよ、頑張るから」


<<本当は奴隷制度自体を廃止にしてやりたいんだが、それはまたちょっと先の話だ>>


 奴隷制度廃止!? この世界でそんなことができるのか? 亜人は奴隷階級というのはあまりにこの世界では常識すぎてそんなことは考えたこともなかった。


<<まずは君たちは無事にウィルクレストの町にたどり着くことに集中しなさい。戦い方はわかるね?>>


「いえ、『愚者(フール)』ですから」



 町への道中、幾度となく魔物に遭遇した。


 リンネが前衛で牽制し、攻撃を回避しつつ、僕がケイオス・ライオットでディストーションを貯めて、スタンブルで一気に仕留めるパターンで、道中の魔物は全て片付けることができた。


 リンネは猫族の種族ボーナスで素早さが高く回避は見事だった。ワーウルフとの戦いも攻撃が通れば倒せたんじゃないかと思う。

 素早い死神が味方なのは心強い。


 魔物のドロップで素材もいろいろ手に入ってホクホクだ。


<<うん、スキルポイント貯まったし、ユウマはバフ系、リンネに攻撃系のスキルが欲しいね。「ハーベスト(魂の刈り取り)」は命中率が低すぎてまだちょっと使えないよね>>

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