第四十六話 秘密結社
僕たちがウィルクレストのギルドに戻ると、ギルマスのラッセルとマーガレット侯爵令嬢が待ち構えていた。
僕はノクティアを紹介し、彼女が「悪魔」だと伝えた。彼女が無害であるということも。
「ノクティアを無害化したことでエルフの預言書から『悪魔』の預言は消えているはずです」
預言が取り消されるなんてあるのかと思ったが、「預言」は世界樹から預かった言葉らしく、助言のようなもので、未来を当てる予言とは違う、とアイマが言っていた。
「今回もよくやってくれたぜ。報奨の件を話してなかったが、金貨10枚が出るぜ。国家案件だからな。この調子で功績を挙げていけば、爵位も夢じゃないかもな」
ラッセルは相変わらず上機嫌だ。爵位を得る者まで出ればますますギルドの箔がつくのだろう。
金貨10枚が妥当なのかよくわからないが、大金には変わりないので文句はありません。
「ところで、仮面をつけた8本足の者たちがノクティアを襲っているのを見たのですが、心当たりはありませんか? そいつらがノクティアに魔素注射をしたようなんです。ノクティア以外にも、失踪していた『ノーブル・エッジ』も魔物化させられて、魔素の森への侵入を阻もうとしてきました。僕はゲセナー侯爵のことを思い出したのですが……」
僕はマーガレットに問いかけた。
「その異形の者たちのことですが……実はゲセナー侯爵のことがあってから、犯人のセリーナが魔族であることが公になったので、王政府を通して魔導連邦国に問い合わせをしたのです。彼らは、国内にとある秘密結社が勢力を広げていて、おそらく犯人はその者たちであろうと連絡してきました」
秘密結社!?
「ヒト族は歴史的に魔素を輸出してきました。ヒト族にとっては無用なものですが、魔族にとっては非常に重要な資源ですからね。ですが、ここのところ魔族は急激に魔素使用量を増やしていて、慢性的な魔素資源不足に陥っているようなんです。それで、一部の者がヒトを魔物化させて魔素を大量生産するという危険思想を持って集まって組織を作っているようなんです。なんでも『アヴィスヴォイド教団』という秘密結社だそうです」
「『アヴィスヴォイド』!」
思わず反応する。
「『アヴィスヴォイド教団』のことを知っているのですか?」
「いえ、『ノーブル・エッジ』のメンバーが『アヴィスヴォイド』の復活がどうのと言っていたので……」
「……なるほど、では犯人は間違いなくその秘密結社ですね。『アヴィスヴォイド』とは何なんでしょう……その……あなたたちのメンバーも知らないのですか?」
アイマのことか。
「はい、うちのメンバーたちもまったく心当たりがないんです」
「そうですか……もしかしたら魔素生産だけが目的ではないのかもしれないですね……セリーナも尋問はしたのですが、アヴィスヴォイド教団の接触は確認できたものの、教団員ではないようで、ただ利用されていただけのようです。詳しい情報は得られませんでした」
そのとき、部屋を慌ただしくノックする音がした。
「何だ? 入れ」
ラッセルが応えると、ギルド職員らしき男が入ってくる。
「大変です! ブリットモア公国が攻めてきています」
「は? 何を言ってるんだ、おまえ」
ラッセルが露骨に不機嫌な表情に変わる。
「いや、だからブリットモア公国が……」
「冗談ではなさそうですね」
マーガレットが言う。
「魔導連邦国からの報告内容には、『アヴィスヴォイド教団』がブリットモア公国に接触しているという情報もありました。もしかしたら何か関係があるかもしれません」
「ええ!? そうなんですか? いや、どうするんですか? ウィルクレストの兵団だけで応戦できるんですかね?」
ラッセルが問いかけた。確かに戦争となれば、騎士団を始め、兵団が必要だろう。
「いえ、王都や周辺の町にも応援は要請しますが、冒険者も集めてください。私の推測が正しければ……」
「何ですか?」
ここにいる皆がその答えを知りたがっている。
「『スタンピード』です」




