第四十四話 「悪魔」の正体
「森は出たくない。いや、出られない」
ノクティアが言った。
<<ここにいたらまた狙われてしまうぞ。預言を現実化させるわけにはいかない>>
「預言とは何のことだ?」
「エルフの預言書だよ。君が魔物を率いて、エルフの大森林を攻撃するってさ」
僕が言う。
「そんなこと……」
ノクティアは言葉を濁した。
「あり得なくはないか……確かに私はエルフ族の破滅を願っていた。もし魔物を率いる力があればやりかねないな」
「どういうこと? エルフ族が憎いの?」
「まあな。私はただでさえ呪われた血筋と言われるダークエルフの血を持っている上に、ヒト族の血も持っている。純血主義のやつらからすれば、この世で最も忌むべき存在だろう」
「つまり両親がそれぞれ、ダークエルフとヒトってこと?」
「そうだ。母がダークエルフで父がヒトだ」
血筋のせいでエルフ族から異端視されて迫害され、ヒト族の社会でも差別を受けることは間違いないだろう。
能力とジョブのせいで酷い扱いを受けた僕とも境遇が重なる気がしたが、少なくとも貴族として育ってきた僕なんかよりよっぽど酷い人生を送ってきたんだろう。
「すごく綺麗なのに……」
あ、思わず言葉が出てしまった。
リンネが何か睨んでくる。
「……そんなこと言われたのは初めてだ」
ノクティアは顔を赤らめる。
「すみません、でも綺麗な人って妬まれやすいんですよね」
「そんなことないです。私は友達になりたいです」
リンネが言う。
「しかし私はずっとここで生きてきたんだ。外の世界は無理だ。魔物しか寄り付かないこの場所でしか私の居場所はない」
こんな魔物だらけの森で生きてきた?
そんなことが可能なのか? ヒトの血を引いているとはいえ、ダークエルフはかなりの長寿だろう。どれだけ長い月日をここで過ごしてきたのだろうか。
「両親もここで死んだんだ。ここにしか私の思い出はない」
<<本当にそれでいいのか?>>
「……私だって外の世界を見てみたい。この森が安全でないこともわかっている。でも外の世界はこの森よりも怖いんだ……」
「僕たちと行こう。僕たち『ラスティ・ジャンク』は皆はみ出し者だからノクティアの気持ちは理解できるよ。それに、誰かが君を傷つけようとしたり貶めるようなことがあれば僕たちが必ず守るよ」
ノクティアは僕たちといるべきだ。
「うん、一緒に行こう。絶対大丈夫」
「わしも同意や。あんなすごい魔法見たことないわ。あんた、すごいで」
リンネもロズウェルも同調する。
「……ありがとう。私を外に連れ出そうとしてくれる人がいるなんて……」
ノクティアが涙ぐむ。
<<決まりだな。嫌になったらいつでも戻ってくればいいさ。「ラスティ・ジャンク」にとっても重要な戦力になってくれるだろう。範囲攻撃や遠隔攻撃が弱点だったからな。申し分ないステータスだな>>
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名前: ノクティア
Lv.72
基本ジョブ:悪魔
昇格ジョブ:悪魔・魔導士
HP 143/143 MP 354/354 攻42 防35 速176 知287
スキル:
・〈ヘル・アイシクル〉〔地中・空中から魔界の氷柱を顕現させ攻撃/消費MP10〕
・〈ヘル・フレイム〉〔魔界の業火を召喚し攻撃/消費MP10〕
・〈ダーク・メテオ〉〔魔界の隕石を降らせ大ダメージ/消費MP20〕
スキルポイント: 26
武器: なし
防具: エルフの胸当て (防+12)
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「悪魔」はジョブのことだったのか。それにしてもなんという知力……その美貌といい、早くも劣等感が僕を襲う。




