第四十二話 異形の者たちとダークエルフの女
ダメージを負ったロズウェルに「リリーフ」を連発し、全回復させる。
MP消費0は偉大だ。
「『ノーブル・エッジ』が悪魔の正体だったのかな?」
<<違うだろうな。「悪魔」は森の中にいるはずだ。やつらは俺たちが森に入るのを止めようとしていた。「悪魔」を守るためか、あるいは見つかってはいけないものが森の中にあるのか……>>
「アビソシマチがどうのこうのって言ってたね。何なんだろう」
<<「アビスヴォイド」な。俺も聞いたことがない。何かきな臭いな>>
アイマが知らないことがあるんだ……急に不安になってきた。
<<情報がない以上、進むしかない。幸いリンネもロズウェルもMP消費は最小限で済んだ>>
僕たちは「魔素の森」へと入った。
魔素沈着のせいなのか、木々や植物はすべて黒い。まだ真昼間なのに、薄暗く、不気味な森だ。
出現する魔物は少しずつ手強くなっているようだが、(ほぼ、いや、全てか……リンネが)難なく倒して進んでいくことができた。
太陽の光が木々に隠され、方向感覚も定まらなくなってきたが、アイマの指示に従い、森の奥へと進んでいく。
そこに、3体の何かがいた。
それは異様な姿だった。
それぞれ蜘蛛のように8本の足を持っているのだが、その足は硬質な鉄のようで、節がある。その足に支えられた胴体は人型のもので、魔物のアラクネを思わせるが、顔には真っ黒な仮面をしており、目も鼻も口も見えない。
「なんだ、あいつら……」
3体の異形の者たちは、何かを囲んでいるようだった。
僕たちに気づいたのか、節のある足を動かして、その場を去っていった。
僕たちが彼らのいた場所に近づいていくと、そこに人が倒れていた。
浅黒い肌に、先の尖った長い耳の女性……エルフだ! おそらくダークエルフか?
意識はあるようだが、何か苦しんで呻いているようだった。
<<すでに為すことを為した後だな。だから後に残して逃げていったんだ……ユウマ、おそらくまだ間に合う。急いでディストーションを溜めろ>>
事態が飲み込めないまま、慌てて「ケイオス・ライオット」を発動する。
<<デストーション・レート: 100%。「ディープ・ブリース」だ。急げ>>
そんなスキルあったな。状態異常を少し回復するやつだ。
「ディープ・ブリース!」
ダークエルフの女性が大きく長く息を吸い込み、一気に吐き出した。
するとどす黒い煙のようなものが口から放出されていく。
<<注入されていた魔素だ>>
ダークエルフの女性は正気を取り戻したようで、僕たちのほうを見回す。
本物のエルフを見るのは初めてだったが、想像していたよりもずっと美しく、マーガレットのような造られたような美しさに近い気もしたが、もっと神秘的な、あるいは妖しい美しさのようなものがあった。
「あなたたちは?」
ダークエルフの女性が尋ねる。
「僕たちは冒険者です。僕はリーダーのユウマと言います。あなたがアラクネみたいなやつらに何かされているようだったので、状態異常解除をしました」
「そうか……それは助かった。あいつらに捕まって何かを体に入れられたんだ……」
何か……魔素注射か?
ゲセナー侯爵と同じやつかもしれない……何かつながりがありそうだ。
<<話は後にしろ。超高濃度の魔素に引き寄せられて魔物や魔獣が集まってくるぞ>>
とアイマが言うや否や、遠くから地響きが届いてくる。
地響きは瞬く間に大きくなっていく。




