第四十一話 魔素の森での再会
翌朝、僕たちは宿を出立し、「魔素の森」を目指した。
ウィルクレストの町を出て、魔素が降り注ぐガルム街道を北に進む。
この街道を歩くと、僕が「愚者」の天啓を受けた日のことを思い出さずにはいられない。この街道で僕はアイマを拾い、リンネと出会ったのだ。
なお、ガルム街道を南に進むと、僕が最初に「愚者」の天啓を受けた教会のあるブライアの町につながる。
父は、より魔素濃度の強い北側に僕を捨てたわけだ。
そして今、僕たちはさらに魔素濃度が強くなる北に向かって進んでいる。
この先に「魔素の森」があり、さらにその先にエルフの大森林が広がっているのだ。
道中の魔物を(主にリンネが)倒しながら進むと、やがて先のほうに森が見えてくる。
森の手前に何人かの人がいるようだ。
森の番人でもいるのだろうか? エルフの大森林ならともかく、「魔素の森」に番人を置いてまで守るべきものがあるのか?
「あ、『ノーブル・エッジ』……」
リンネが呟く。
僕らがエースの盾役だったドクトルを再起不能にしたあち、失踪していたA級パーティー「ノーブル・エッジ」……4人そろっている。
こんな場所で何をしているんだ……
まさか僕たちが来ることを知っていて、待ち伏せしていたわけでもないよな。
「なんや、知り合いか?」
ロズウェルが言う。
「やりすごそう」
こちらとしては特に彼らに用事はない。
<<様子が変だ。警戒していけ。普通に戦えば、今のおまえたちが負ける相手ではないが>>
「待て」
そうだよね。呼び止めるよね、普通。
振り返って見ると、リンネによってステータスを全て0にされたはずの盾役のドストルだった。
ミイラにように干からびていたはずなのに、以前のように筋骨隆々に戻っている。
確かに変だ。なぜここまで回復している。
「ここに何のようだ」
「いや、ちょっと調査に来ただけです」
「何の調査だ?」
「それは秘密です」
ドストルの顔が激しく怒っているように歪む。目は血走り、角や牙が生えてきた。文字通り鬼の形相。
いや、それはおかしいでしょう? ヒトをやめたのか!?
「アビスヴォイド様の復活を拒むか……」
言ってる意味がわかりません。
<<ロズウェルは「リディキュール」でヘイトを集めて耐えるんだ。リンネは速攻で後ろの3人を片付けろ。ユウマはロズウェルを「リリーフ」連発で回復し続けろ>>
アイマが指示を出している間に、ドストルの変体が完了し、僕に向かってきたので、両刃グレイヴを振り回しながら牽制し後退する。
ディストーションを溜める暇はなしか……盾役のくせにめちゃくちゃアグレッシブだな。盾は捨てたのか?
「リディキュール」
ロズウェルがスキル発動すると、ドストルが向きを変え、腕を振り上げ、指先に伸びた鋭い爪でロズウェルを攻撃する。
ロズウェルは盾で防御するが、凄まじい打撃で少し体勢を崩され、爪がロズウェルの頬を掠めた。
僕はロズウェルの背後にまわり、「リリーフ」を発動する。
「おお、ええな、それ。一瞬でダメージが消えたで。気分もすこぶるよくなったわ」
そうなの?
<<「大いなる愚者」になったことでディストーションが常に10%溜まってるから、常にスキル効果10倍だ>>
すごいな、それ。『大いなる愚者』を侮ってたよ。
<<リンネが他のやつらを倒すまで耐えておけ>>
ドストル以外の3人もやはり鬼のような姿に変体していた。武器も持たず、詠唱をするでもなく、指から伸びた長い鋭い爪で攻撃を繰り出す。もはやジョブも関係ない。
リンネは素早く敵に近づく。
次の瞬間には、元魔法職系と思われる2人の首が宙に舞っていた。
攻撃の瞬間が全く見えなかったが、打刀と脇差それぞれで同時に斬ったのだろう。
続けて、リンネの姿を失った元剣士の背後から一閃、その首も飛んだ。
<<残りのそいつはちょっと手強いぞ。ユウマは「エンカレッジ」をリンネに。リンネはそいつが倒れるまで「レクイエム・ブレード」を繰り出せ。ロズウェルはヘイトを切らさず耐えてくれ>>
僕はロズウェルからリンネに意識を移し、「エンカレッジ」を発動した。
ロズウェルに猛攻を続けるドストルに、リンネが背後から近づく。
「レクイエム・ブレード!」
スキルを乗せた打刀と脇差の2連撃がドストルを捉える。
「グァぁぁぁ!」
大きな傷を首筋と背中につけられたドストルが声を上げる。
倒れはしないが、確実に大きなダメージが入っている。
「レクイエム・ブレード!」
再びの2連撃、そのうちの一閃が強い光を放つ。
<<クリティカルが入ったな。終わりだ>>
ドストルが崩れ落ちた。
「ラッキーだったね」
<<「エンカレッジ」で攻撃力だけでなく、クリティカル確率も上がっていたから、それほどのラッキーではない。当然の結果だ>>
あ、そうですか。
<<それにしてもヒト型にしてはかなり強力な敵だったな。魔物化していたようにも見えたが、知性があった。古の魔族に近いかもしれない。元のステータスが弱い者ほど、強くなっていたのも特徴的だったな>>
元が弱い者ほど強く……まるでディストーションを溜めた「愚者」みたいだと思った。




