第四十話 さまざまな問題を一つずつ片付けていくこと
「ユウマはマーガレット様と結婚したいの?」
ギルドを出るなり、リンネが小声で聞いてくる。
「いや、したくないよ」
僕は正直にはっきり言う。
「そうなの? でも偉くなれるかもしれないのよ」
「そんなの興味ないよ」
ふーん、と言って、なぜかリンネは微笑む。
「でもマーガレット様すごくきれいよね。あんなにきれいな人見たことないわ」
「僕はリンネのほうが……」
と言いかけてやめた……僕は何を言おうとしているんだ……恥ずかしい。
「何?」
「いやなんでもない」
「何よ?」
えらい迫ってくるな、リンネ……
「何を言おうとしたか忘れちゃったよ」
「何よ、それ」
と言いながら、リンネは笑う。
「もしユウマが貴族になったら、奴隷でもいいから雇ってね……」
「君を奴隷にするつもりなんてないよ」
もし万が一貴族になったら、まず奴隷制度を廃止するように働きかけよう。
「じゃあ、追い出すつもり?」
「追い出しもしないし、奴隷にもしない」
また、ふーん、と言ってリンネが笑う。何なんだ、この問答は……
それにしても「悪魔」とは何者なんだろうか。「預言書」なんてものが存在しているのも知らなかった。
この世界には知らないことがたくさんあるし、知らないことがいろいろ起きているようだ。
<<今日はゆっくり休んで、また新しい任務に備えるんだな>>
ああ、そうだ。アイマの意見を聞きたかったんだ。
「アイマは『預言書』のことも『悪魔』のこともよく知っているの?」
<<「預言書」のことはよく知っている。「預言書」によって俺がこの世界に召喚されたようなものだからな「悪魔」のことは…….森に行ってみればわかるだろう>>
「なんだよ、それ」
<<今日は早く飯食って寝るんだ。明日に備えろ>>
陽は落ち、あたりは暗くなってきており、ところどころにランタンの灯りがともっていた。
僕たちはちょっといい宿屋に入って、まずは食事をした。
改めて、ささやかだが、レッドドラゴン討伐の祝勝会、兼S級パーティー昇格の祝い、兼ロズウェル加入の歓迎会だ。
故郷の町が壊滅し、仲間や親類も亡くしたロズウェルだが、明るく場を盛り上げてくれた。
仲間がいることのありがたさを改めて噛みしめた。
僕たちはその宿屋で1人1部屋ずつとって、それぞれ部屋に入っていった。
いろいろと政治的にもきな臭いことになっている。
ブラッドランス伯爵家がウィルクレストの一部領土を管轄することになり、コンスタンティン侯爵家に近づこうとしている。
父はまだまだ上を目指しているようだ。王になるまで止まらないのだろうか?
そのままいけば世界征服でも狙うのだろうか。
バカバカしい。
ブリットモア公国が不穏な動きをしているというのも気になるな。
ウィルクレストの町は北東側がエルフの大森林に接しているが、北西側がブリットモア公国に接していたはずだ。
ウィルクレストは地勢的に重要な位置にある。
つまり、何かあれば、ブラッドランス家も手柄を立てやすいとも言えるな。危険も大きいだろうけれど。
<<眠れないのか?>>
「うん、ちょっといろいろ考えちゃってね」
<<そうか>>
アイマと2人きりになるのは久しぶりだ。いつもリンネがいたからな。
<<これからもおまえはさまざまな問題にぶつかるだろう。だがな、おまえにとって最も重要なことは、目の前の問題を一つずつ全力で片付けていくことだ。いろいろ考え出すと何も解決できなくなるぞ。道筋は俺がつけてやるから心配するな。つまり……早く寝て明日に備えろ>>
「わかったよ。おやすみ、アイマ」




