第三十九話 魔物でもなく、魔族でもなく、悪魔
「本題というのは?」
早く話題を完全に切り替えたい。
「新しい依頼があってな。A級以上が対象だから諦めかけていたんだが、ここにS級冒険者がいらっしゃるのでな」
「はい、なんでもやります。やらせてください」
食い気味に話題に乗っかっていく。
「さすが、S級だな。では依頼主からお話いただこう」
え?
「そうね。ぜひユウマにはより功績を積んで早く爵位に就いてもらいたいわね」
またマーガレット様のご依頼ですか……ランク指定というより「ラスティ・ジャンク」指定じゃないですか。
「で、どういった依頼でしょうか?」
そう聞くと、マーガレットの表情に少し緊張が見えた……気がする。
「ちょっと国際問題に発展しそうな問題があってね……ウィルクレストはヴァレンティア王国の北東の端に位置するでしょう? つまり、この大陸の中央にある、エルフの大森林に接していることになるわ」
「はい、でも地図上で接しているだけで、町が直接大森林に接しているわけではないですよね? 町を出てすぐに大森林に入るわけではないですから」
「そう、そこが問題なのよ。町は実際にはエルフの大森林には接していないけれど、地図上は接しているの。町と大森林の間の、ヒトが住んでいない空白地帯に、『魔素の森』があるのですけれど、そこに『悪魔』が住んでいるという噂が出てきているんです」
「悪魔? 魔族のことですか?」
「いえ、魔族ではないわ。もちろん魔物でもない」
「はあ……」
「はっきり言ってしまうと正体はわかっていないわ。ただ、エルフ側から、『悪魔』が魔素の森にいるという報告がきているの。『悪魔』が魔物を使役し、エルフの大森林に侵攻しようとしていると」
「実際に侵攻してきているんですか?」
「いえ、まだよ。侵攻してきてしまったら大問題になるわ。『ウィルクレスト領』から、魔物が攻めてきたとなれば、ヴァレンティア王国が侵攻してきたように見えてしまうわ」
「でも、まだ侵攻していないなら敵意があるかどうかわからないじゃないですか」
「そうね、ユウマが納得がいかないなら『調査依頼』にしてもいいのだけれど、おそらくこれは確かな情報よ」
「情報源が確かだということですか?」
「……そうね、いいわ。お話ししましょう」
そこで、マーガレットは一呼吸おいて、続けた。
「エルフ族は『預言書』を持っているの。彼らの大森林の中央に存在する世界樹が、世界中の情報を集めて内容を預言書に反映していると言われているわ。それがどのような記載なのかはわからないのですが、『預言書』が、悪魔の存在と魔物による侵攻を告げたと、王国に通達があったの」
「『預言書』ですか? そんなものを皆さん信じているんですか?」
「ええ、実績がたくさんありますからね。私の知る限り、エルフ族からの預言の告知が誤っていたことが一度としてないわ。それに、ゲセナー侯爵家の件もあって、嫌な予感がするのよ……最悪の場合、ヒト族とエルフ族だけの問題ではなく、世界中を巻き込んだ問題にもなりかねない予感がするわ。それを防がないといけないの。やってくれるわね、ユウマ?」
断れる雰囲気など微塵もないじゃないですか……
「その『悪魔』を討伐すればいいんですね?」
「討伐でも捕縛でもいいわ」
「その『悪魔』に関する情報は他に何かありませんか? 見た目とか、『悪魔』だとわかる何かがあるといいのですが」
「ごめんなさい。何もないわ。行けばわかるでしょう。あなたの心強い相棒が何とかしてくれるわ」
アイマのことか……ギルマスの前ではさすがにアイマ発言はさせられないな。
「国家間の問題を防いだとなれば、爵位にも近づくわね」
そう言ってマーガレットが小さな微笑みを見せた。




