第三話 猫耳の少女
「あの、ありがとうございます……」
気づくと猫耳の少女が戻ってきたようだった。
逃げてとは言ったものの、逃げた先でまた別の魔物に襲われる可能性も高いだろうから、戻ってきてくれたのは良かった。
「良かった、無事だったんだね。僕はユウマ。この小さいゴーレムはアイマって言うんだ」
胸のポケットに入って顔を出しているアイマも挨拶する。
<<どうも、アイマだ>>
少女はアイマを見て驚いた顔をする。そりゃこんな人形みたいなのが喋ったらビックリするよね。
「私はリンネと言います」
改めてリンネの身体を見ると、痛々しい切り傷がそこら中についている。
体力も限界なのか、今にも倒れそうだ。
逃げなかったんじゃなくて、逃げられなかったのか……
「傷がひどいね……手当てしてあげたいんだけど……僕、『愚者』だから、回復系のスキルがなくて……」
<<いや、レベル上がってスキルポイント貯まってるから、回復スキルも取得できるぞ。ステータス見せてやろう>>
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名前: ユウマ・ブラッドランス
Lv.9
ジョブ:愚者
HP 67/67 MP 5/5 攻11 防15 速8 知2
スキル:
・〈スタンブル〉〔つまずかせる/必中・消費0〕
・〈ケイオス・ライオット〉〔無秩序行動/消費0/命中・攻補正なし/歪み蓄積↑〕
スキルポイント: 8
固有リソース:〈ディストーション〉(歪み率:0~100%/乗算バフ)
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レベル8も上がってるのは嬉しいんだけど、知力1しか上がってない……なんかスキル解説も入ってるし。
<<スキルポイントを使って覚えるべきは「リリーフ」だな。スキルポイント消費も3だけだ。お買い得だぞ>>
またしょうもなさそうなスキルだな。
<<まずはスキル取得してみろ。言葉で言うだけでいい>>
「スキル取得、リリーフ」
そう言葉に発すると、一瞬胸の周辺が小さく光って消えた。
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・〈リリーフ〉〔慰めてわずかに士気向上、HP回復/消費0〕
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<<もちろん単発で使っても、大した効果はない。まずはケイオス・ライオットを発動するんだ>>
「ええ?! 敵もいないのにディストーション貯まるの?」
<<敵がいなくても無様なヘマを繰り返していると思えばディストーションは貯まる。いいから、やらんと、リンネの体力が保たんだろう>>
確かにリンネの様子がおかしい。立っていられないようで、膝から崩れ落ちて座り込んでしまっている。
「ケイオス・ライオット!」
体がまためちゃくちゃな動きを始める。
リンネがぼんやりとこちらを見ている。
自分が苦しんでいるのに何をバカなことしているんだとか思っているだろうか。思うよね。
……後で説明させて。
今回長いね。まだかな。
<<よし、53%。そんなもんでいいだろう。リリーフだ>>
対象をリンネに定める。
「リリーフ!」
柔らかい、だが強い白い光にリンネが包まれる。
光が次第に弱まっていく。
リンネの姿が再び現れたときには、全身の切り傷がきれいに消えていた。
表情も何だか……過剰なくらい明るくなっている。
「傷が治ってる! 何だか気分もすごく良いです!」
リンネの笑顔が眩しい。
「ああ、それは良かった」
僕は微笑み返した。思った以上の回復効果とリンネが元気になったことは本当に喜ばしいのだが…ホッとしたら羞恥心が込み上げてきて、消費0のスキルのはずなのに何だか精神的な疲労感を感じる…
「本当にありがとうございます!」
と、リンネが僕に飛びついて抱きついてきた。
おお、柔らかい……
「はは……いや、当然のことをしただけだよ……」
「命まで助けてもらって…本当にもうダメだと思って諦めかけていたんです……」
ありゃ、泣き始めちゃったか。
<<お楽しみのところ悪いんだが、ちょっとステータスを見させてもらうよ>>
「あ、すいません。つい……」
リンネが顔を赤らめて、僕から離れた。
アイマ……余計なことしてくれるな……
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Lv.12
名前: リンネ
ジョブ:死神
HP 53/53 MP 42/42 攻32 防17 速43 知41
スキル:
・〈ハーベスト〉〔対象の魂を刈り取る/単体・命中率1%・消費MP10〕
・〈ソウル・プロテクト〉〔HP1を残し、攻撃に耐える/消費MP10〕
スキルポイント: 11
武器: ショートダガー
防具: 皮の胸当て
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し、死神……??
<<おお、いいね>>
そりゃ愚者に比べれば、ステータスもスキルも僕より全然いいよね。
<<わかっているとは思うが、君一人じゃいくら「ディストーション」があっても、戦闘で勝ち続けるのは難しい。ケイオス・ライオットは隙がありすぎてディストーションレートを上げる前にやられる可能性が高いからな。さっきもこのお嬢ちゃんにワーウルフの意識が向いていなかったら即やられていたぜ>>
それはその通りだな。
僕のケイオス・ライオット中にソウル・プロテクトとかかけてもらったら助かりそうだし。
僕たち相性いいかも??
<<良い仲間ができたな。これこそ、魔神様のお導きだ>>
「仲間にできそうな娘がいるとわかってて誘導したって言いたいの?」
<<あたりまえだ>>