第三十七話 ウィルクレストへの凱旋
御者にウィルクレストへの馬車の移動を依頼し、ウィルクレストに向かう。
御者のチャップという気のいい男だった。
道中、このチャップとも言葉を交わした。
チャップはいつか貿易商になっていろいろな国を見て回りたいと語った。
素直に素敵な夢だと思った。もし僕は領地を持つようなことがあれば彼と仕事をしてみたいと夢想した。
たびたび魔物にも出くわしたが、新生「ラスティ・ジャンク」のーー特にリンネのーー敵になるような魔物はまったくいなかった。
2本の刀で瞬時に魔物たちを斬り刻む姿は圧巻だった。より「死神」らしく進化している。
今ならソロでもワーウルフに対峙しても楽勝だろう。
ちなみに僕もスライムとゴブリンには楽勝だった。
S級パーティーのメンバーとしては恥ずかしくて人には言えないが……
ウィルクレストの町に到着し、町に入る際に、チャップが門番に「ラスティ・ジャンク」の一行だと告げると、まずその門番が「おめでとうございます」と声をかけてきた。
何のことかと思ったが、すでにレッドドラゴン討伐の成功と、S級冒険者になったことが知られているのだとわかった。
町に入ると、大勢の人々が道の左右に並んでいた。
馬車で通過すると、左右の観衆が手を振ってくる。「ラスティ・ジャンク万歳!」「S級昇格おめでとう!」「ウィルクレスト最強!」などさまざまな掛け声も降ってくる。
こういうのはまったく慣れておらず、ぎこちなく観衆に向かって手を振った。
リンネも気恥ずかしそうに手を振る。それはそれで可愛らしい。
逆にまだ正式にメンバー登録されていないロズウェルが、ポーズを取ったり、観衆を煽ったりと、一番はしゃいでいた。
まもなく僕たちはギルドに到着した。
ギルドの前にはギルマスのラッセル……とマーガレット伯爵令嬢までいた。
「おお、ウィルクレストの、いやヴァレンティア王国の英雄のご帰還だな。よくやってくれたな、おまえら。正直、ここまでやるとは思ってなかったぜ」
ラッセルが上機嫌に褒めちぎってくる。
「私が見込んだ通りだわ」
マーガレットは当然だと言わんばかりだ。彼女の場合は、「ラスティ・ジャンク」というよりアイマを信用しているんだろうが。
「おまえらのおかげで、このウィルクレスト・ギルドがついにA級ギルドに昇格したんだ。なにしろS級冒険者を輩出したからな。唯一のA級パーティーが失踪しちまってどうしようかと思ってたのに、まさかだぜ。それにしてもギルド登録から数日でS級なんて前代未聞どころか、今後も二度とないだろうな。マーガレット様様だ」
A級は「ノーブル・エッジ」しかいなかったのか……失踪?? 再起不能になっちゃったか……
それにしてもこのギルドは冒険者は多いのに……A級になるのって難しいんだな……S級ってどれだけすごいんだ……
「あ、このマーガレット様も伯爵令嬢から侯爵令嬢様になったからな」
ゲセナー侯爵家があんなになったら、そうなるしかないよな。マーガレットとは引き続き懇意にさせていただこう。
「立ち話もなんだから、中に入れ。内密に話したいこともあるんでな」
ラッセルの「内密に」、というのが嫌な予感しかしないのは僕だけだろうか?
仕事を果たしてくれたチャップとは、また会おうと言葉を交わし、そこで別れた。




