第三十三話 ブラッドランス家
「抵抗するようなら君たちもリュウジと同じ目に遭うよ。僕には『賢者』も見破れない秘密のスキルがあるからね」
念のため、元勇者パーティーを脅しておく。
リュウジのやられっぷりを見たら抵抗する気はなくなるだろう。
ディストーションを溜めないとあんなのはできないんだけどね。
タネがバレたら、僕なんかじゃ彼らには勝てないだろう。
「もとはといえば、リュウジが指示してやったことだ。ボクたちは悪くない!」
ケントが喚くが、城兵はかまわず縄を手にかける。
「ユウマさんも何とか言ってくださいよう。ボク、お金もけっこう持っているんですよ。全部あげますから」
ケントが泣きついてくる。
「それはありがたい。そのお金は遺族補償に充てるんだ。おまえは牢獄で一生反省しろ。二度とその顔を見せるな」
僕はそう吐き捨てた。
ケントは力なく崩れ落ち、城兵の縄に繋がれた。
「私たちは被害者なのよ。このゲス野郎たちに巻き込まれただけなのよ」
「リュウジやケントの罪はいくらでも重くしていいわ。私たちもこのクズたちは絶対に許さない。私たちを一緒にしないで!」
剣聖も聖女も保身を優先するようだ。
僕も彼女たちにはそこまで恨みはないので、本当に付き合わされていただけなら、情状酌量してやってほしい。
無罪とはならないだろうけれど。
肉体がほとんど修復されてきた勇者はすでに縄で捕縛されている。
「おまえら散々俺のおかげでいい思いしてきて、それはねえだろう?」
リュウジも言い返すが、その言葉は虚しく響く……
勇者パーティーの末路はレベルの低い仲違いで幕を閉じた。
改めてウィルクレストに向けて出立しようとすると、観客の中から誰かが近づいてきた。
父ガイウス、そして後ろに兄サイウスだ。
「ユウマ、ちょっと待て」
父が僕を呼び止める。
「こうして話すのも久しぶりだな」
父が続ける。
「いろいろ誤解があったと思うが、ブラッドランス家に戻ってきてもよいぞ。いや、戻ってこい」
僕のおかげで伯爵に昇格できたんだから、僕が追放されていることがわかったらどうなるかわからない、といったところか。
リンネが心配そうに僕を見る。ここのところ心配かけてばかりだな。
「僕はブラッドランスの家に戻ることはありません。僕の仲間を侮辱するような人たちがいるところにはいられません。あなたにまたいつ捨てられるかもわからないですからね」
「おまえに領地をやろうと思っている。伯爵家になったことで治める領地もかなり大きくなった。領地内では好きにしていい。獣人が好きならそこで好きなだけ飼えばいい」
今度は懐柔しようとしてくるか。だけど、僕とは根本的に価値観が異なるということは理解すべきだ。
「あなたの領地は要りません。自分で自分の領地は手に入れますよ」
「おまえに政治などわからんだろう。悪いことは言わん。ブラッドランス家の下で働け」
結局のところ、父は僕のことをバカにしているんだ。
「ユウマの好きにさせてやりましょうよ、お父様」
兄のサイウスが口を挟んできた。
僕のことを少しは考えてくれているのか、あるいは自分の取り分が減るのが怖いのか。
「サイウスよ、貴様は父に意見するだけのことを成したのか?」
父がサイウスを睨みつける。
それは、僕が「愚者」とわかったときに向けられた視線だった。
「僕がブラッドランス家を自分で名乗ることはしませんし、ブラッドランス家から追放されていることも言いません。ですが、もし僕の邪魔をしたり、仲間を傷つけるようなことがあれば、ブラッドランス家とは対立することになりますので、ご容赦ください」
僕はそう宣言する。
邪魔さえされなければ、ブラッドランス家などもうどうでもいい。
「ふむ、焦ることはない。少し考えるといい。決しておまえにとって損にはならんだろう」
「それでは失礼します。もう行かないといけませんので」
僕たちはブラッドランス家の父と兄を後に城門をくぐり、王城を去った。




