第三十一話 クソ勇者の帰還
翌朝、ウィルクレストの町に戻ろうと王城を出て行こうとすると、ヴァイスが見送りに来た。
「ユウマ様、ぜひこれからも懇意によろしくお願いいたしますよ」
まったく調子のいい男だ。
おかげで望外の報奨をいただけたわけだが、僕がこの宰相兼軍師を信用することはないだろう。
王城を出ようとすると、外が騒がしいことに気づいた。
門番たちが何かもめているようだった。
見ると相手は勇者パーティーの4人だった。
「おやおや、負け犬たちが騒々しい。さっさと追い払いなさい」
ヴァイスは出てきて門番に指示する。
「おい、ヴァイス、宿屋を追い出されたぞ。王城下町の施設はなんでも使ってよかったはずだろう? どうなってるんだ!」
ヴァイスは露骨に見下したような視線を投げかける。
「勇者の称号は剥奪です。当然勇者特権も剥奪ですから、宿も何も使えるわけがないじゃないですか。役立たずに与えるものは何もありません。今までの遊興費なども返済していただきたいですね」
ああ、そうか。「元」勇者パーティーになったんだな。
「なんだと! ふざけるな!」
「ふざけるな、だと? それはこっちのセリフだ。散々、贅沢させてやったのに、レッドドラゴンを前に尻尾を巻いて逃げたんだと? 責任を軽んじる者はこの王国にはいらん! 失せろ!」
本当に、役立たずには厳しい男だな、ヴァイス……ある意味清々しいな。
「これからまた討伐に行ってやるよ。そもそもおまえの見積もりが甘かったんだろうが! 駒がぜんぜん足りなかったんだよ! 兵士を1,000人預けろ。必ず討伐してきてやる」
こいつ……まだたくさんの人を自らの功名心と贅沢の犠牲にするつもりか……
ヴァイスは鼻で笑って返す。
「レッドドラゴンならもう討伐されてるよ」
「は? そんなわけないだろうが! あんな化け物が俺以外に倒せるわけがねえ」
「おまえが我が王国の大事な冒険者や騎士たちを見殺しにした後にもレッドドラゴンと勇敢に戦い見事討伐された方々がいらっしゃるのだよ。ああ、そうだ、貴様たちには殺人罪の嫌疑もかかっているからな。拘束しておけ。ははは、わざわざ捕まりに来るとは」
「ちょっと待て。なんで俺たちがレッドドラゴンに殺されたやつらを殺したことになるんだ」
「皆が殺されることを狙って、眠っているレッドドラゴンを起こしたのはおまえたちだろう」
我慢できず、僕が指摘する。またあのときの怒りと悔しさが込み上げてくる。
「起こさないと戦えねえだろうが。バカなのか? あ、おまえ『愚者』だな。バカでも仕方ねえか。いや待て、なんでおまえがまだ生きてるんだ? まさか…….」
「そうですとも。『竜殺し』の称号を持つこの『ラスティ・ジャンク』の皆様こそ、レッドドラゴン討伐に成功した英雄です。このたびめでたくS級への昇格を果たされました」
「なんだと!? そんなことがあるわけねえだろうが!! 討伐証明を見せてみろ!」
その言葉にヴァイスが反応する。
「……そういえばレッドドラゴンの討伐証明って見たかな…….素材はどうしました? かなりの高額になると思いますが……」
討伐証明を持っていないわけがないだろう。というかなんで誰も最初からそれを確認しないんだ、この人たちは。
僕は討伐証明のため持ち帰った、レッドドラゴンの鱗、爪、牙を荷物袋から取り出す。
一つずつでもかなり重いものだ。これらは討伐証明だけでなく、武具の素材にもなるから取っておけと
アイマに言われたのだった。
「実はほかの素材もかなりの量を残してきてしまっているんです。もし可能であれば、それを王国で回収して売却して遺族の皆さんの補償に当てられませんか?」
「おお、そうですか。わかりました。少し手数料はいただくと思いますが」
信用していいものか怪しいが、とりあえず回収してもらわなければならないのでいったん任せるしかないだろう。
「こいつ『愚者』なんだろう? そんなやつがS級なんて認めねえぞ。ああ、そうだ、俺の『ブレイブ・オーバードライブ』でレッドドラゴンは死んでたんだな。そうだ、俺は討伐完了を見届けてさっさと帰っただけだ」
「なぜ討伐証明を持って帰らなかったんですか?」
ことごとく自分で墓穴を掘るな……
「それは……おまえに討伐証明を持って帰れって言ったからだろうが!!」
それは無理がありすぎだろう……
「今の話の流れでそれはおかしいだろう? 自分で言っててわからないのか? そこまで愚かなのか? 言い逃れできるわけがないだろう……僕たち以外も生存者はいたし、全員があんたの逃亡を証言しているんだぞ……」
「俺と決闘しろ!」
唐突に元勇者ーーいや、もうただのリュウジかーーが言い出した。
「は?」
言い逃れできないと思ったら、暴力に訴えるか……
「俺様がどれだけ強くて、おまえがどれだけ弱いか見せてやる。それでどちらが嘘をついているかはっきりするだろう?」
「見苦しいな、仮にも勇者と呼ばれた者が……」
「いいだろう、やろう」
ヴァイスの話を遮って、僕が答える。
「え? いいんですか?」
ヴァイスが聞いてくる。
「はい。やります」
僕もいい加減、この男に引導を渡さねばなるまい。




