第三十話 「ラスティ・ジャンク」のタンク
祝賀会が流れ解散のようになったが、今晩、僕たちは王城の別棟にある寝室を使わせてもらえることになった。
昨晩は勇者パーティーが使用していた部屋だ。
僕と、リンネ、ロズウェルにそれぞれ別々の部屋があてがわれた。
僕は寝室に入る前にロズウェルを呼び止めた。
「なあ、ロズウェル、君はこれからどうするんだ? チムニーロックの町で暮らしていくのはもう無理だろう?」
「いつか復興できればとは思っとんねん。生まれ故郷やから、なくしてしまうのは悔しいねん。でもせやな、今は住めるところちゃうからな」
「よかったらウィルクレストの町に来ないか?」
「ああ、あんたんところか。せやな……」
「何か不安でもある?」
「いや、仕事あるんかいな、と思って。冒険者しかやってきたことなくてな。しかも火力ないから、パーティーを組まな、ひとりだときっついねん」
「え? 『ラスティ・ジャンク』に入ればいいじゃん」
「え? ええの?」
「もちろんだよ。僕たちは時間稼ぎしないと火力が出せないから、盾役は必須なのに、今までいなかったから、ロズウェルは大歓迎だよ」
「確かにそうやな。少しでも役に立てるようがんばるで。それにしても2人パーティーってのもしんどかったやろ」
「あ、いや、一応3人パーティーなんだよね」
「え? もうひとりおんの? そういや、あんたとおると、たまに変な声しよるな。「透明人間」ジョブなん?」
「いや、これなんだけど」
そう言って僕はアイマ(チビゴーレム)をシャツの胸ポケットから取り出す。
<<ロズウェル、「ラスティ・ジャンク」にようこそ。歓迎するぞ>>
「うわっ、怖っ。腹話術ってやつやな?」
<<いや、俺は独立した人格を持った智の魔神、アイマだ。このパーティーの頭脳を担っている>>
「へー、すごいな。魔法かスキルでしゃべるようになっとるんか?」
<<この体は作りものだが、私の魂は人工的に発生させたものではない。ひとりの人格として扱ってくれていい>>
「ようわからんけど、よろしゅうな」
「じゃあ、明日一緒にウィルクレストへ帰ろう」
僕たちは別れ、城内に割り当てられた別々の寝室に入った。
部屋に入るなり、ベッドに倒れ込んだ。
ベッドはウィルクレストの町の宿のものとは違い、ふかふかだった。
昨晩は馬小屋の藁の上だったな……
男爵家のものよりも、もちろん上等なベッドだった。
ブラッドランス家も伯爵家にまでなったか。
父はさぞ喜んでいるだろう。
権力を手にしてどうするつもりなのだろうか……
そんなことより、今回犠牲になった冒険者や騎士団員たちの遺族はどうなるのだろう……王国からの補償は出るのだろうか……
とりとめもなく結論の出ないことを考えていると、誰かが僕の部屋のドアをノックした。
「リンネです」と声がしたので、ドアを開ける。
「どうかした?」
「……なんかひとりだと落ち着かなくて……」
なるほど、こんな立派な部屋にひとりで寝るってことが今までなかったんだな。
「入りなよ」
「うん」
リンネが部屋に入り、ドアを閉める。
そしてそのまま僕に抱きついてくる。
リンネはまた泣いていた。
僕もリンネの背中に手を回し、さすってやる。
「ここのところいろいろありすぎたよな……もう大丈夫だよ」
「私……正直に言うと、ほかの冒険者の人たちが死んじゃってもあまりなんとも思わなかったの……私のことを奴隷だって見下していた人たちだったから。私もおかしくなっちゃってたんだろうと思う。でも、ユウマが苦しんでいるのを見るのはすごくつらかった……」
「ああ、悪かったな」
「私たちが生き残るには、ユウマが犠牲になるしかなかったのかな」
バカな僕にはわからないが、アイマもほかの案がなかったのだから、おそらくそうなのだろう。
「これからはきっと大丈夫だよ。盾役のロズウェルも仲間になったし」
「もう2人だけじゃないのね」
リンネは少し寂しそうな顔をする。
仲間が増えたのに寂しそうな顔をするのも不思議だ。
「一緒に寝てもいい?」
リンネが言う。
「ああ、もちろんだよ」
<<今日は変なことしてもいいけど、俺もいるからほどほどにな>>
「しないから!」
と僕が叫ぶと、リンネが少し笑った。




