第二十九話 報奨
「さあ、皆様、英雄の帰還です! レッドドラゴンは見事討伐されました!」
ヴァイスが高らかに宣言すると、おお!と会議場内に歓声が上がる。
「さすが勇者パーティーですな。おや、勇者様はどちらに?」
貴族らしき者が尋ねる。
「皆様には申していなかったかもしれませんが、あの勇者パーティーには少し問題がありまして、レッドドラゴンを目前にして逃亡いたしました」
会議場がどよめく。
「ヴァイス殿、どういうことですか?」
「皆様にはご心配をかけないよう伏せていたのですが、勇者召喚の手順に不備があった可能性があったようでして、能力、および人格に問題が出てしまっていたのです」
「そうだったのですか。いや、私も実はそれを感じておりました。昨日の食事会での横暴ぶりも酷かったですからね……いや、しかし勇者パーティーなしでどう討伐されたのですか?」
なんだかヴァイスがレッドドラゴンを討伐したような話になっていますな。
「はい、勇者パーティーの敵前逃亡を想定して、この『ラスティ・ジャンク』に第二の戦略を授けていたのです」
「『ラスティ・ジャンク』? 聞いたことがないパーティーですな。で、それはいったいどういう戦略だったのですか?」
そこでヴァイスは言い淀む。
「……それは私から言うのもなんですので、ご本人たちからご説明いただきましょう」
いや、あんたの戦略だったんじゃないんかい。どうでもいいけど。
「『愚者』の固有リソースの『ディストーション』を蓄積したうえで『エンカレッジ』で『死神』の『ハーベスト』命中率を上げて仕留めました」
「そういうことです。見事でしょう! この戦略が見事に決まり、レッドドラゴン討伐に成功いたしました! さあ、皆さん、本日は大いに祝杯を挙げましょう!」
強引に話題を変えたな、ヴァイス……
「それは私の愚息です」
父が突然の発言をする。
「……はい? 『ラスティ・ジャンク』のこの……」
「愚息の名前はユウマと言います。ユウマ・ブラッドランスです」
父が僕を認めた?
いや、野心家の父のことだ。単に僕の功績を利用したいだけだろう。
利用したければ利用すればいい。ただ、僕を一度捨てたことはともかく、リンネを侮辱したことは許せない。
家に戻って、ブラッドランス家のために尽くすつもりはないぞ。
「おお、そうでしたか。さすが勇猛なブラッドランス家ですな。聞くに、サイウス殿もユウマ殿を献身的にサポートされて討伐に貢献されたようで立派なご子息をお持ちになりましたな」
もう話がめちゃくちゃになっているぞ、ヴァイスさん。
「いや、俺は……」
サイウスが気まずそうにする。
兄も父と同じだ。救いはしたが、僕は兄の侮辱も許すことはないだろう。
「そうそう、報奨をぜひお受け取りください。モーファス陛下、よろしいですか?」
ヴァイスがモーファス王にお伺いをたてる。モーファス王は二つ返事する。
この2人の関係を見るに、モーファス王は傀儡で、ヴァイスが実権を握っているのかもしれない。
「『ラスティ・ジャンク』には金貨100枚、S級冒険者認定、そして「竜殺し」の称号。ブラッドランス家は伯爵への昇格です」
会議場は再び歓声に包まれた。
まさか……本当にS級になれるとは……金貨100枚って何が買えるんだ??
こんなことが「愚者」の僕に起こるなんて信じられない。夢みたいだ。
祝宴が始まり、僕たちは貴族たちに大いに賞賛された。
昨日食べられなかったご馳走も、今日はお腹がはち切れんばかりに食べた。
リンネあまりの美味しさに気絶しそうなくらい驚いていた。
心から楽しい宴だった……とはいえない。
レッドドラゴン戦で犠牲者を出してしまったことはずっと心のどこかに残っていた。
だが、それでも僕たちは生き続け、一歩ずつ前に進むしかない。




