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第二話 愚者の固有リソース

 馬車も何もないから徒歩で町に向かうしかない。


 アイマが道にも詳しかったので、最寄りのウィルクレスト町に向かうことになった。


 道中も警戒しながら、なるべく足音も抑えて移動した。

 魔物に見つからないことが最も重要だった。


 はずだが……


<<もうちょっと大胆に行きなよ。なるべく魔物を倒していった方がレベルも上がるしさ。大胆さ、無謀さは愚者の美徳なのに>>


「いや、死んだら元も子もないでしょう? レベル上げはせめて装備を整えてからじゃないと……」


<<装備なんてなくたって勝てるって>>


「装備あったって自信ないよ……」


<<お、魔物だ>>


「え!?」


 慌てて周りを見渡すが、魔素の霧が強く遠くが見渡せない。


<<耳を澄ませ>>


 息を殺し、耳を澄ませる。


 ……微かに何か聞こえる。女性の声!?


<<そのまま進め。誰か魔物と交戦中だ。助けないとやられるぞ>>


 僕も一緒にやられるんじゃないの?


 だけど危険に遭っている人がいるなら無視できない。

 どうせ一度捨てた気になった命だ。誰かを助けられるならやられてもいいか。

 いや、僕がやられてでも助けてあげないと。


「わかった。行くよ。できればその人を助けられるような指示をくれ。僕は最悪やられてもいいから」


<<簡単に死ぬことばかり考えないでくれるか。簡単にレベル上げするくらいの気持ちでいてくれよ>>


 急ぎ移動するとまもなく、魔素の霧の先に猫耳を頭に生やした女性の姿が見えた。軽装で手には短いダガーのような武器を持っている。

 猫族か? 猫族とエルフは僕の憧れの種族ではあるのだが、今はそれどころではない…


 猫族の女性は、複数の魔物に囲まれていた。


<<ワーウルフだな。3匹だ。大した魔物じゃない。ラッキーだ>>


 ワーウルフは2mを超えるような巨躯で、隆々とした筋肉に硬そうな皮膚をしており、何より鋭利な爪を持っている。

 女性もギリギリで避けていたのだろうが、全身に切り傷を負っているようだ。

 僕には強力な魔物にしか見えないが…


 まずはこちらに注意を向けさせよう。


 僕は走り出してワーウルフに突っ込んでいく。


<<おい、よせ。まずはディストーション(歪み)を貯めるんだ>>


「何言ってるかわからない」


<<いいからその場で「あばれる」んだ>>


「は?」


<<いいからやれ。俺がいいって言うまでだ>>


 もうヤケクソだ。


ケイオス・ライオット(むちゃくちゃ暴れる)!」


 両腕、そして両足が何もない空間に攻撃を始める。人前でこれをやることになるとは…前衛的な戦闘舞踊とかに見えますかね??


 敵が数メートル先にいるというのに、僕は何をしているんだ……まさに「愚者」にふさわしい様相だ…


 派手に動き回る僕にワーウルフたちが気づかないはずがない。

 意識が明らかにこちらに向いて、ポカンとしている


 そして猫耳の女性も振り向く。

 大きな瞳で愛らしい顔だ。猫耳とショートボブの髪型が似合っていてかわいい……


 だけど、やっぱり僕の奇行に呆気に取られている表情……


 恥ずかしい……


<<お嬢さんは避難させて>>


 ええ……


「お嬢さん、私の後ろに来てください…」


 うう……恥ずかしくて声が小さくなってしまった…


「はい?」


 ああ、もう!


「いいから、こっちに!」


 すると、猫耳少女は、僕の方に素早く駆け寄り、背後に移動する。

 速いな……その敏捷性で、なんとか凌いでいたというところか。

 それでも全身切り傷や擦り傷だらけだ。

 それに対して相手は全く無傷の状態。


 獲物を横取りされると思ったのか、3匹のワーウルフたちが遅れて一斉にこちらに襲いかかってくる。


「アイマ、どうしたらいい?」


<<ディストーション(歪み)レート()32%か…この程度の魔物であれば十分か。よし、スタンブル発動だ。真ん中のワーウルフを中心に3匹とも対象にしろ>>


「はあ? スタンブルなんて1秒も時間稼ぎできないだろう!?」


<<いいからやれ>>


 何なんだよ、もう。結局、俺はこのチビゴーレムに騙されただけで死ぬのか…少しでも時間稼ぎして、せめて猫耳のこの娘だけでも無事に逃げてくれ。


「お嬢さん、あれだったら、なるべく遠くに逃げてね。僕は大丈夫だから」


 猫耳少女は頷く。


 ワーウルフはもう目の前で、すでに3匹とも、鋭利なナイフのような爪をもった腕を振り上げている。


スタンブル(つまずき)!」


 僕は爪に引き裂かれることを覚悟した。

 また前世と同じような最期だな、と思っていた次の瞬間、先頭のワーウルフの足が吹き飛び、そのまま激しく地面に打ちつけられて上半身も潰れてしまった。

 一呼吸置いて、同じように左右のワーウルフも潰れていく。


 何コレ?


<<解説いる?>>


「いるよ!」


<<解説したところで、理解できないだろうし君一人じゃ使えこなせないだろうけど、まあいいや>>


 何か、言い方に棘が出てきてるな。こっちはいつでも捨てていけるんだぞ。


<<「愚者」ジョブには固有リソース:ディストーション(歪み)ってのがあるのに気がついていたか?>>


「なんかあるな、とは思っていたけどスキルじゃないから無視してた」


<<だろうね。固有リソースのあるジョブは極めて稀だから、あまり使い方も知られていない。でも俺は智の魔神だから、その使い方もすぐに推測できて、今回実践したわけだ>>


「使い方に確信あったわけじゃなかったの!?」


<<文献で固有リソースのことは知っていたから自信はあったぜ。特に「愚者」はスキルがヘボなだけに、固有リソースは超強力(チート)なんだ。ディストーション(歪み)レート()が貯まれば貯まるほど、愚者スキルの威力が乗算されていくから、32%程度で、スタンブルみたいなスキルでも破壊力が出るんだ。スタンブルは相手のスピードによっても威力が増すしな。時速500kmくらいで必中のめちゃくちゃ硬い石につまずいて吹き飛んで地面に叩きつけられたらヤバいだろう?>>


 わかるような、わからないような……


 ただ、ワーウルフが実際に潰れたところを見ると、威力には間違いがないだろう。


「『ディストーション』を貯めるのに『ケイオス・ライオット』が必要なんだよね?」


<<そうだ。「ディストーション」を貯めるには、「愚者」ならではの「ヘマ」をしないといけないんだ。攻撃が外れる、っていうのはわかりやすい「ヘマ」で、「ケイオス・ライオット」は効率よく「ディストーション」を貯められる。正確に理解するには魔素物理学の応用が必要になってくるんだが、簡単に言うと予測される結果から逸脱する行為が「ディストーション」を生んで、次のスキル成功時に「ディストーション(歪み)」を正そうとする力が、乗算的に乗ってくるってわけだ>>


 うん、「愚者」の僕にはよくわからないから、なんかチートっぽいやつなんだと納得したことにします。


<<もっとわかりやすく言えば、小さな積み重ねが強大な力を生む、それが「愚者(フール)」ジョブの最大の特性ってことだ>>

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