第二十八話 王都への帰還
僕は山中の弱い魔物に遭遇するたびに「ディストーション」を貯めて「リリーフ」することで生き残った者たちを1人ずつ回復させ、山の麓まで戻った。
その中には兄サイウスもいたが、会話は交わさなかった。
山の麓にはまだ御者たちが待機してくれていた。
勇者パーティーは御者たちには何も言わず、すでに1台の馬車で勝手に王都に戻って行ったそうだ。
結果的に、御者が残っていてくれたおかげで僕たちが帰路につくのには助かったが、本来であれば御者たちも避難させておくべきだっただろう。
僕たちがレッドドラゴン討伐に失敗していたら、ここにいた御者たちも無事ではなかったはずだ。
逃げた勇者パーティーと僕たちを除いて、生存者は3名のみ。ほかは全員死亡してしまった。何人もの命が奪われてしまったのだ。
僕たちは空車となった何台もの馬車を引き連れて王都への帰路についた。
レッドドラゴン討伐は成功したが、皆暗い気分だった。
馬車群が王城に到着した。
そこには、王城の門の外にまで出て待ち構えるヴァイス宰相がいた。
「生存者はこれだけか……まあ、上出来だろう……うん? なぜ『愚者』が生きているんだ? 勇者様はどうされたんだ?」
「勇者なら逃げましたよ」
「どういうことだ!? レッドドラゴン討伐は失敗したのか?」
「討伐は成功しました」
「おお、討伐は成功したか! 勇者パーティーなしでも屈強な冒険者や騎士団を揃えたからな。で、誰がとどめを刺したんだ? やはりサイウス殿か? さすが勇猛なブラッドランス男爵家のご子息だ。子爵、いや、伯爵にまで取り立ててもよいかもな」
「ちゃうで」
ロズウェルが割り込む。
「勇者も賢者もあんたの作戦はガン無視やったで。皆が配置についてへんうちに、眠るドラゴンを起こしてもうて魔導士部隊は全滅。A級冒険者も騎士団たちの攻撃もダメージゼロ、でほとんどが死傷や。そこまでやって、お得意の『ブレイブ・ハート』での攻撃でもかすり傷しか与えられんくて、怖気付いて逃げたってわけや。あ、だから作戦通りやっても、どうやっても倒せへんかったで」
ロズウェルの話を聞いているうちに、みるみるヴァイスの機嫌が悪くなっていくのが表情に見て取れた。
「いやいやいや、話が矛盾しているだろう? 先ほど討伐は成功だと言っただろうが。いい加減な報告はやめなさい……うん? 貴様、チムニーロックの生き残りだろう? おまえまでなぜ生きているんだ? 何が起きているのだ? いや、そうか、貴様らが逃げ出したせいで、『ブレイブ・ハート』の火力が足りず、討伐が失敗したのだな? 勇者様に責任を押し付けようとしているんだな、なんたる不届き者か!!」
ヴァイスは生存者たちの方を向く。
「おい、本当のところはどうなんだ? 貴殿ら、教えてくれ」
「本当です、ヴァイス様。我々は勇者に人身御供にされ、仲間たちは皆殺され、私たちはたまたま運よく助かっただけです。勇者は討伐に失敗し、私たちを置き去りにして自分たちだけ逃亡しました。私は絶対にあいつらを許しません」
冒険者のひとりが話すと、ヴァイスは信じられない、というようにほかの2人にも話をするよう促すが、どちらも事実だと証言した。
「何ということだ! 勇者が討伐できないものをどうすればいいのだ!? レッドドラゴンが万が一にでも王都にやってきたら大惨事だぞ……」
「だから討伐したって言うとるやろが! 人の話をよう聞けや!」
ロズウェルが業を煮やして怒鳴った。
ヴァイスは一瞬ムッとした顔をしたが、次の瞬間には満面の笑顔に変わった。
「え? そうなの? 何、勇者が失敗したのに誰が倒したの? すごいのが紛れてたのか。私が招聘したメンバーだから、そうだよね。そりゃそうだ。疑って悪かったね。報奨もたっぷりはずもうじゃないか」
「このユウマとリンネが倒したんや」
「いや、ロズウェル、君もいなければ、僕らは確実にやられていた。僕たち皆で勝ったんだ」
ヴァイスがキョトンとする。
「いや、そいつらは確か『愚者』と奴隷の獣人だろう? どうやったってレッドドラゴンを倒せるわけがないだろうが」
「本当ですよ。死にかけていた私たちを助けてくれたのも彼らです」
サイウスが言う。ほかの冒険者2人も頷く。
「そうなの? どうやって?」
「まあ、固有スキルとかいろいろ連携して、パーティーとして勝った感じですかね」
僕が答える。
「よくわからんが、討伐成功したなら何でもいいや。よくやった、諸君! 君たちのパーティー名は確か……」
「『ラスティ・ジャンク』です。チムニーロックのロズウェルも大きく貢献したので忘れないでください」
「ああ、そうだ。君たちは私がウィルクレストのギルドに依頼して来てくれたんだったな! ふむ、作戦1は失敗したが、私の予備の作戦2が成功したということか」
何言っているんだ、この人。どうでもいいけど。
「ひとつだけ言わせてください。僕たちは眠っているレッドドラゴンを犠牲者を出さずに倒す術を持っていました。ですが、勇者と賢者は自分たちの功名心のために、あえて犠牲者を出すという愚行をしたのです。そのことは絶対に忘れないでください」
「ああ、大丈夫。役立たずを処分するのは得意だから心配なさらないでください。さあ、城内へどうぞ。今日はしっかりおもてなしさせていただきますよ」




