第二十七話 愚者とレッドドラゴン
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名前: レッドドラゴン
Lv.499
HP 10012/10492 MP 919/972 攻1359 防1282 速637 知782
スキル:
・〈ヘル・ブレス〉
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<<数%程度しか削れなかったようだな。勇者のスキルに頼りすぎて基礎を鍛えていないのが問題だ>>
「リュウジ! 足手まといだ! どいてろ!」
そう怒鳴ると、勇者は立ち上がり、慌てて退避を始める。
「お、俺が死んだら、せ、世界がヤバいから、俺が逃げ切るまでちゃんと時間を稼げよ!」
そう言い捨てて勇者は逃げていく。
剣聖と聖女も勇者の後を追って逃げていった。
さっきまでの威勢はどうなってんだ……
もう戦えるのは僕たちしかいない。
そして、まだディストーションが全然足りてない。
もう痛みがどうこう言ってられない。
「リンネ、一気にダメージを稼ぐから『ソウル・プロテクト』を頼むぞ」
「うん……」
リンネは僕がどれだけの苦痛を受けているのか想像できるのだろう。優しい子だ。
僕はまだピンピンしているレッドドラゴンに突っ込んでいく。
横からレッドドラゴンの尾が激しく打ち付け、体が不自然な形に折れ曲がって、吹き飛んだ。
<<〈ディストーション・レート: 37%->50%〉>>
「『ソウル・プロテクト』」
まだだ。僕は痛いけど大丈夫だから、リンネももうちょっとだけ頑張ってくれ。
立ち上がり再び立ち向かおうとすると、立ち上がる前にブレスが飛んできて体が焼き尽くされる。
<<〈ディストーション・レート: 50%->62%〉>>
「『ソウル・プロテクト』」
リンネが大泣きしながら崩れ落ちている。人が目の前で苦しんで何回も死ぬのを見るのって辛いよな……こんなスキルしか持ってなくてごめんな。
レッドドラゴンが強靭な顎で僕の体を噛み砕き、首を振り上げて、空中高く放り投げる。
砕かれた僕の体は落下し、地上に激しく打ち付けられた。
<<〈ディストーション・レート: 62%->76%〉>>
「『ソウル・プロテクト』を発動するMPがもう一回分しかないです! どうしたらいいんですか?」
<<そこまでだ。「ハーベスト」の分のMPは残しておくんだ。ユウマ、後退して「ケイオス・ライオット」に切り替えろ。まだ76%だ>>
あと24%……一発でも食らえば即死……僕が動き始めるたびにすぐに攻撃してくるレッドドラゴンがそんなに時間をくれるとは思えない……ここまできて万事休すか……
「わしの出番やな……ようわからんけど、勝てる策があるんやろ? 時間稼ぎが必要ならわしが守ってやるわ」
ロズウェル……
「いや、でも死ぬぞ」
<<ロズウェルに任せろ。おまえはさっさとディストーションを溜めろ>>
「くっ、『ケイオス・ライオット』」
立ち上がり、ダブルエッジ・グレイヴ を振り回す僕を、レッドドラゴンが見逃すはずがない。
こちらに向かってくる。
そこに、ロズウェルが、レッドドラゴンと僕をつないだ直線上に立つ。
「『リバーサル・フォルティチュード』」
ロズウェルは何かのスキルを発動すると、その体が上下にひっくり返り、薄青の淡い光に包まれた。
「……からの『リディキュール』」
レッドドラゴンの注意が、ロズウェルに向き、ブレスを放った。
ブレスがロズウェルに直撃する。
が、ロズウェルは同じ場所でまったく変わらない状態で上下逆さまになったままだ。
どういうことだ……?
「問題ない。スキルでヘイトを集めた。『リバーサル・フォルティチュード』の発動中はどんな攻撃をされてもダメージ無効になるんや。ついでに回復付きでな。ただ、あんまりMPがもたんからはよしてな」
レッドドラゴンは上下逆さまになったままのロズウェルに近づき、尾を鞭のように叩きつける。
さらに近づき、爪で裂き、噛み砕こうとする。
ロズウェルはレッドドラゴンの強烈な攻撃を執拗に受けるが、まったく効いていないようだ。
「あかん、わしのMPもうすぐなくなってまうわ」
<<〈ディストーション・レート: 76%->100%〉>>
「ロズウェル、ありがとう。もう大丈夫だ。僕たちの勝ちだ」
チムニーロックで散っていた君の仲間たちや町の皆の仇を取ってやる。
「『エンカレッジ』」
リンネの胸が光る。
もうリンネは泣いていない。
やるべきことがわかっている。強い子だ。
「『ハーベスト』」
リンネがスキルを発動する。
ロズウェルに激しい攻撃を繰り返していたレッドドラゴンの動きが止まる。
ロズウェルが逆さまのまま地面に倒れ込む。
同様に、MPを使い果たし、緊張が解けたリンネも膝から倒れた。
長い沈黙。誰も何も音を発さない。
やがて、レッドドラゴンが横に倒れ込む。
倒れ込んだ瞬間、大きな地響きがヴァンダレイ山にこだました。
レッドドラゴンが倒れるまで、数分もなかったと思うのだが、それが何時間にも感じられた。
そして僕もその場に倒れ込む。
<<本当によくやったな。おまえたちは紛れもなく英雄だ>>
終わったんだ……また僕たちは生き延びた……




