第二十四話 「吊された男」
「昨日は大変やったな」
ロズウェル。「吊された男」という変わったジョブを持つ男で、チムニー弁で話すところも特徴的だ。
残念なことに、僕たち「ラスティ・ジャンク」と同じ犠牲部隊に配属されてしまっているおり、僕たちと同じ馬車に乗ってヴァンダレイ山麓のチムニーロックの町に向かっている。
ロズウェルが暮らしていたチムニーロックはレッドドラゴンに潰されてしまった上に、こんな役割を与えられるとはあんまりだと思う。
どうせ身内も仲間もレッドドラゴンに殺されたのだから、討伐戦の最中に殉死して、死者のもとに行くのが幸せだとでも思われているのだろうか。
「いえ、ロズウェルさんこそ大変でしたね。お知り合いも亡くなってしまっているでしょうに……」
「ロズウェルでええよ」
ロズウェルはため息をついた。
「せやな、正直しんどいわ……冒険者仲間も皆死んでもうたし、親族も友だちも皆や」
「それは本当に辛かったですね……」
「あれは天災みたいなもんや、天災にはヒトだけじゃなくて、植物も動物も誰もかなわん。しゃーない。辛いけど、少しずつ受け入れるしかないんや。それで、死んでいった仲間たちのためにも生きな、って今は思ってんねん」
「ロズウェルは強いんだな」
「根性と忍耐力だけはあんねんな」
「でもロズウェルはどうやって生き延びることができたの?」
「根性と忍耐や」
「え?」
いや、無理でしょう……冗談を言う流れでもないと思うんですが……
「まあ、運が良かったんや。たまたま耐えられるスキルを持っててな。でももちろん倒すことはできひん」
「いや、すごいですよ。レッドドラゴンの攻撃を耐えるなんて」
「でもそれだけじゃ誰も救えへんかったんや。勇者さんたちが倒してくれたらええんやけどな……あんたらが昨日いなくなったあとは標的がわしになってな。皆の仇を討つために死ねって言われたねん。どないせいっちゅうんや」
僕は何も言えなかった。
「……ほんまに倒してくれるんやったら、わしは死んでもええねんけどな」
生きようとがんばろうという気持ちと、もう死んでもいいという気持ちで揺れ動くロズウェルの気持ちは痛いほど伝わった。
やがて馬車はチムニーロックの町に入った。
町は噂以上に酷い状況で、建物の瓦礫が散乱し、人々の焼け焦げた死体がそこらじゅうに転がっていた。
ひとつとして無事な建物も人もいなかった。
天災と一言に言っても、ここまで徹底的に破壊し尽くすような天災が存在するのだろうか?
「着きました」
御者が言った。
いよいよだ。




