第二十三話 馬小屋にて、決戦に備える
「ごちそうを食べられなくなっちゃって、ごめんな、リンネ」
リンネは首を振る。
そして、すすり泣く。
リンネの憧れの王都は素敵な場所であってほしかった。
しかし、実際はクソみたいなやつらばかりで、リンネをモノのように扱い、僕も尊厳を傷つけられた。
「リンネ、大丈夫だ。めちゃくちゃ稼いで、いくらでもあれくらいのごちそう食べさせてあげるよ……どんなことがあっても僕は君の味方だ」
<<ああ、心配するな、リンネ。おまえは立派な女性だ。自信を持っていい。あんな小物ども相手にする必要はない。智の魔神が言うんだから間違いない。俺が間違ったことはないだろう?>>
アイマもそんなことを言ってくれることもあるんだ……
<<大丈夫だ。必ずこの世界を変えてやる。おまえのスローライフの夢も必ず叶えてやる>>
リンネが泣きながら頷く。
<<しかし小物の転生者ごときがなかなか偉そうにしてくれていたな>>
「え? 転生者?」
<<気づいていなかったか? 名前からして転生者っぽかっただろう?>>
「もしかして僕が転生者だってことも知ってたの?」
<<当たり前だろう。ついでに言うと俺も転生者だ>>
「ええ!?」
<<おまえたちの世界線とは別の、はるかに進んだ文明の世界線から来ているがな。あの勇者や賢者は所詮、ヒト族の未熟な召喚技術で呼ばれたやつらだ。魂も腐りきってしまっている。俺は世界樹のもとでエルフ族に召喚されているからな、召喚元も召喚先もやつらとはまったく質が違う。それから、ユウマ、おまえもちょっと妙な経緯で異世界転生したようだな。召喚によらず、自然に転生した例は聞いたことがない。偶然の産物なのかよくわからんが、その特殊な事情によって、「愚者」のような超レアなジョブを得たのかもしれん>>
全然情報が消化できない。
ただわかったのは、僕だけじゃなく、勇者や賢者、そしてアイマも転生者だということだ。
<<しゃべりすぎたな。今は転生自体は重要なことじゃない。重要なことは、勇者もユウマと同じように固有リソースを持っているということだ>>
「そうなの? じゃあ勇者も『ケイオス・ライオット』みたいなことするの?」
僕がそう聞くと、リンネがプッと笑った。
想像すると楽しい絵面だ。
<<いや、勇者の固有リソース「ブレイブ・ハート」は愚者の「ディストーション」とはまったく違うものだ>>
違うんだ。残念。
<<「ブレイブ・ハート」は仲間が傷つくほど、貯まっていき、勇者の攻撃力に加算されていく。もし仲間の誰かが死にでもしたら、攻撃力2倍のボーナスがつく。本来は勇者が逆境をはねのけるための「ブレイブ・ハート」なんだが、やつらはそれが生け贄を必要とするものだと認識してしまっているんだ。だからおまえらを必ず死なそうとしているんだ>>
「そんな……じゃあ、僕らが生き残るために戦おうとしても、それでも死なせようとしてくるってこと?」
<<そういうことだ。おまえは正面からレッドドラゴンにぶつけられるから、ディストーションを溜めようと「ケイオス・ライオット」をしようものなら、簡単にブレスで一発死亡か、あるいは踏みつぶされて終わりだな>>
ですよね。今回は後方で他の皆が戦っている間にディストーションを貯めるなんて許されないよなぁ。
リンネもレッドドラゴン相手じゃ対応しきれないだろうし……
<<だが、もちろん死なせはしない。おまえらはまだまだしなきゃいけないことがたくさんあるからな>>
うん、僕もついさっき、リンネにお腹いっぱいご馳走食べさせるって約束しちゃったばかりだから死ねないな。
<<そのためにもディストーションを溜めるための新しいスキルを取得しておくんだ>>
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名前: ユウマ・ブラッドランス
獲得スキル:
・スピリッツ〔致死ダメージを受けると気合いが入り、ダメージ分の100分の1のディストーションが溜まる/消費0〕
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またバカっぽいスキルだなぁ。
っていうかレッドドラゴンの攻撃受けたら、気合いがあってもディストーションが溜まる前に死ぬのでは??
いや、致死ダメージ前提ってなってるし、スキルとして成り立ってないじゃん……「愚者」って本当にバカなんだと痛感するな……
<<あとは「吊された男」が最後の鍵になるだろうな>>




