第二十一話 レッドドラゴン合同討伐 戦略会議
「皆様、お待たせいたしました。ご出席の方が揃いましたので始めさせていただきます」
ヴァイスが宣言する。さすがに大きな討伐作戦だから、こういうのやるんですね。
父と兄が気になるが、僕に気づいただろうか……
「ご存知のとおり、最近の魔素濃度上昇に伴い、魔物が大量発生している状況ですが、ついには北方のヴァンダレイ山にレッドドラゴンが発生し、周囲の町を襲撃しております。山麓のチムニーロックの町はすでに壊滅しました。このままではさらに被害が拡大し、このヴァレンティア王国自体が危機に陥りかねません」
ヴァイスが一呼吸おく。
レッドドラゴンと聞いても、遠くの災害くらいにしか思っていなかったが、確かに犠牲になっている人たちがたくさんいるだろう。
僕が……その大災害を止める助けになるのなら、全力を尽くすべきだな。
「今回、皆様にお集まりいただいたのは、この強大な魔物を共に討伐するために他なりません。さらには我々を侮る他国に、我々の力を見せつけることもできます」
他国って現代魔族の国とか?
そういえばマーガレットが、現代魔族が魔物の魔素を欲しがっているって言ってたな。なんかいろいろあるんだろうな。
現代魔族ならレッドドラゴンでも飼い慣らせるんだろうか?
「決行は明日、明朝よりヴァンダレイ山に向かいます。冒険者の諸君と、有志参加の騎士団員たちはよろしくお願いいたします」
冒険者だけじゃなく、騎士団からも参加者がいるのか……
「さっそく作戦をお伝えします。レッドドラゴンは現在ヴァンダレイ山頂の巣で休息中との確認が取れており、明日までは休眠中と見られています。ただし、侵入者が来たとなればすぐに目を覚ますでしょう。一団はチムニーロックの町から、麓に入り、山頂を目指していただきます。道中にも魔物は出没するかと思いますが、皆様であれば何の問題もないでしょう。さて、本題はレッドドラゴンです」
そう言って、ヴァイスの傍らに立っていた助手を呼んだ。
助手は会議卓に大きな紙を広げ、チェスの駒のようなものを真ん中に置いた。
「作戦は、大きく三つの部隊で実行します。まず、ウィルクレストの……」
「『ラスティ・ジャンク』です」
僕が言う。そんなに覚えにくいのか? 興味ないのか?
「『ラスティ・ジャンク』とチムニーロックの生き残りの……」
「『ロズウェル』や」
僕の隣に座っていた男が言った。
背が高く、痩せた体型で、何のジョブなのか予想もできない。アタッカーやタンクなどの前衛タイプには見えないが、魔術師系だろうか。
僕たちと同じように興味を持ってもらえないらしい。犠牲になった町の生き残りなのに……
「『ラスティ・ジャンク』と『ロズウェル』。君たちが先陣部隊となってレッドドラゴンの正面に立つんだ」
そう言って、ヴァイスは真ん中の駒の正面に別の駒を置く。
「とても重要な役目だ。有効打はなくてもいいが、もちろん少しでも削れるのであれば、それに越したことはないが、それよりもなるべく耐えて注意を引きつけ続けることのほうが重要だ」
「死んでも立ち続けてろ」
と発言した者を見ると父だった。
やはり僕に気づいていたのか? どうせ生きていたなら役立って死ねということだろうか。
「ブラッドランス侯の言うとおりです。死んでも注意を引きつけ続けてください」
ヴァイスが茶化して言った……のだと思ったが、まったく顔が笑っていない。他の者も真顔だ……皆、本当に僕らをただの捨て駒と考えているのか……まさか本当に「死んでもいい」枠で呼ばれていたとは……
僕はマントで胸ポケットのアイマを隠す。
アイマに意見を聞きたかったが、マーガレットが特に王侯貴族にはアイマの存在を知らせるなと言っていたので、今は話をすることもできないか……
たとえアイマと話ができたところで、犠牲を強いられる状況が変わることもないか……
「次に賢者様を中心とした魔法部隊です」
ヴァイスは次に側面側、距離のある位置に別の駒を置く。
「賢者」ジョブか……僕の「愚者」の対極のジョブだ。すごい魔法やスキルが使えるんだろうなぁ。
「右側面の離れた場所に陣を取り、魔法で攻撃をお願いします。なるべく水属性の攻撃魔法、水属性が使えない方も、火属性以外の攻撃魔法をお願いします。少しでも削ってください。この時点で、正面の犠牲部隊、右側面の魔法部隊にレッドドラゴンの注意が向きます」
犠牲部隊って言われちゃったよ。
「最後に勇者様、剣聖様、聖女様、騎士団メンバーを中心とした攻撃・支援部隊です」
ヴァイスは2つの駒を手に取り、魔法部隊とは逆側の側面に置いた。
「この部隊が攻撃の主力です。聖女、白魔導士の方々は攻撃職の方々に攻撃力上昇系のバフをかけていただき、攻撃職の方々は隙をついて全火力でレッドドラゴンに攻撃を仕掛けてください。レッドドラゴンは三方に注意を奪われ、混乱します。ダメージも一気に稼げます」
おお、と歓声が上がる。「これならいける」という声が上がる。
「まだです。最後は勇者様単騎でレッドドラゴンの背後に回っていただきます」
ヴァイスが左側面の2つの駒のうちの1つを背後に回す。
「三方に気を取られているレッドドラゴンは背後に回る勇者様には全く気づきません。隙だらけの背後から、『ブレイブ・ハート』を発動し全力で攻撃をお願いします。この時点で犠牲部隊はもちろん死んでおいていただいて構いません。他の部隊も多少の犠牲が出ていても大丈夫です。これで勇者様の一撃で確実にとどめを刺せます」
歓声が上がる。モーファン王も満足そうだ。
死んでいいって言われちゃったよ……
父も兄も皆と共に満足そうに笑っている……




