第二十話 王都へ!
翌朝、僕たちが冒険者ギルドに行くと、すでに馬車が横付けされていた。
ギルマスのラッセルは機嫌良さそうに僕らを出迎えた。
「頼むぞ、おまえら。ウィルクレストのギルドの未来がかかっているんだからな。しっかり爪痕を残してこいよ」
プレッシャーかけるなぁ。このギルドの未来がかかっているなら、もうちょっとちゃんと人選したほうが良かったんじゃないだろうか?
こっちにドラゴンの爪痕残されそうだけど……爪痕残されるくらいで済めばいいけど……
「はいぃ……全力でがんばってきます…」
と言うと、ラッセルがバシンっと僕の背中を叩いた。
「気合いだ!」
気合いはいいんだけど、めちゃくちゃ痛い……
僕とリンネは馬車に乗り込み、向かい合って座った。
リンネは子どものように嬉しそうにしている。
初めての王都へ。さあ、僕も覚悟を決めて行こう。
道中、何度か魔物に襲われることはあったが、王都への道はガルム街道ほど魔素濃度が高くなく、魔物も雑魚ばかりだった。
とはいえ、僕はちょっと戦える自信がなかったため、戦闘は主にリンネが行い、僕はバフと回復に努めた。
長い旅路だったが、ようやく王都の城壁が見えてきた。
「あれが王都ね」
リンネが目を輝かせる。
「ああ、あれが王都だ……」
どうしても僕は父と兄との思い出が浮かんできてしまう。
王都へとつながる門には、屈強そうな何人もの門番がいた。
御者が、ギルマスの書状を渡すと、僕たちは門を通された。
そこには華やかな王都の城下町が広がっていた。
「すごい!」
いよいよ、リンネが興奮してはしゃぎだした。猫耳もひょこひょこ動いていて可愛い。
馬車から左右を見渡すと、ウィルクレストの町にはない、さまざまな店と、大勢の人々がいた。
その活気も、リンネが経験したことのないものだろう。
やがて王城に到着した。
城兵が守る門で、また書状を見せ、中に通してもらった。
すると身分の高そうな貴族らしい人が出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました。おや、失礼。どこの冒険者の方でしょう?」
「ウィルクレスト・ギルドの代表で、『ラスティ・ジャンク』です」
「ウィルクレスト……『ノーブル・エッジ』ではないんですね」
「ノーブル・エッジ」は王都で有名なのか…..?
ゲセナー侯爵家の専属と言われていたくらいだからやはり実力はあったのか? あっさり倒しちゃったからな。
「まあ、あそこも使えるのは盾役だけだしな」
そのタンクを潰しちゃったけど……
「ウィルクレストはいつもどおり囮役で、誰でもいいか」
聞こえてますけど……あまり期待してもらわなくていいけど、囮役って一番危険なやつじゃないですかね……こちらとしてはディストーションを溜めるまで他のパーティーに囮役してほしいんですが……
「私はこのヴァレンティア王国の宰相兼軍師のヴァイスです。今回のレッドドラゴン討伐戦の責任者でもありますので、よろしく。さあ、こちらへどうぞ」
偉い人だろうとは思ってましたが……
僕たちはヴァイスについて場内を進んでいく。
コンスタンティン伯爵家やゲセナー侯爵家の建物でも圧倒されたが、王城ともなるとその比にもならない広さだ。
少し城内を歩いたところで、ヴァイスが立ち止まる。
そこには大きな扉があり、城兵が左右に配備されている。
「会議室です。皆様、すでにお集まりです」
ヴァイスが顎をくいっと上げると、城兵が扉を開けた。
部屋の中には、長大な会議卓があり、そのまわりに、すでに多くの人々が着席していた。
僕たちが入室すると、人々の視線が集まった……気がする。緊張して顔を上げられない……
ちらっと見ると、奥には見るからに現王モーファンらしき人が座り、ひとつ空席を挟んで貴族らしい衣服をまとった文官らしき者たちが右手側に、左手側には冒険者らしき者たちが並んでいた。
モーファン王の隣の空席にヴァイスが座るのだろう。
冒険者側の末席のほうが空いていたので、僕とリンネはそこの席に座った。
座っていいんですよね?
恐る恐る参加者の顔を見回す。
おそらくモーファン王に近い席のほうが、偉いのだろう。
冒険者側には屈強そう、あるいは賢そうな人たちが並び、僕たちは場違いな感がある。
文官側もしかつめらしい顔をした人々が並んでいる……あっ!
対面側の末席、僕たちの正面にはブラッドランス男爵家の父と兄が座っている……なぜこんなところに……




