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第一話 愚者のスキル

<<大変なことになったな>>


 一人取り残され、誰もいないはずなのに声が聞こえる。


 早くも魔素酔いで幻聴が聞こえるようになってしまったか?


<<幻聴とかじゃないからな>>


 心を読まれている? いや、これは僕の妄想なんだ……


<<いいから足元見てくれ>>


 幻聴に言われるがまま、足元を見る。


 小さなゴーレム人形がバンザイの格好で転がっていた。


<<やあ、こんにちは>>


 声はその人形が発していた。


「うわっ!」


<<びっくりさせて申し訳ないんだけど、一応これでも俺は魔神でね。ちょっとマナ切れで動けなくなっていたところに君が放り出されてきたわけだ>>


 怪しさでいっぱいだ……


<<悪いんだけど、ちょっと町のほうまで運んでくれないかな。代わりと言ってはなんだが、君も安全に町までたどり着けるようサポートしてあげよう。たぶん君一人だったらすぐのたれ死ぬだろうね>>


 魔神を名乗るゴーレム人形に言われ、自分の状況を振り返る。

 確かに今の状況は僕にとってまずい。

 「愚者」ジョブの天啓と放り出されたショックでまともに頭が回っていなかったが、僕が放り出されたこのガルム街道は、ここ最近魔素濃度が特に高まっており、魔獣も多く出没するという極めて危険な道だ。


 僕の「愚者」のスキルで生き延びられるとはとても思えない……たとえゴーレム人形に騙されたとしても、ここで野垂れ死ぬよりはマシか…


「わかりました……」


 そうして僕はゴーレム人形を拾い上げた。硬い金属の感触だが、軽い。ミスリル製? まさかな。


<<いやぁ、助かった。魔神とはいえ、運まではコントロールできなくてね。まあ、任せておきなさい。俺はアイマだ。よろしく>>


「アイマ、よろしく。僕はユウマ・ブラッドランス……あ、家名はもう使っちゃいけないんだ。ユウマって呼んで」


<<ふむ、ユウマか。よろしく頼むよ>>


「僕は生き延びられるのかな?」


<<俺は魔神は魔神でも智の魔神だ。いろいろあって今の体はこんなんで、直接的な戦闘はできないが、知識と分析と智略でサポートしてやれる。まずはステータスを見せてもらおう>>


 アイマの目の部分が光り、ステータスウィンドウが中空に開いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


名前: ユウマ・ブラッドランス


Lv.1


ジョブ:愚者フール


HP 16/16 MP 1/1 攻1 防2 速2 知1


スキル:

・〈スタンブル(つまずき)

・〈ケイオス・ライオット(むちゃくちゃ暴れる)


固有リソース:〈ディストーション(歪み)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


<<うわぁ……>>


 引いてるじゃん…


<<全く戦闘向きじゃないじゃん。こんなチビゴーレムの体の俺よりもステータス低いし……俺も戦えないから困ったね>>


「やっぱり生き延びるのは無理ですかね」


<<いや、智の魔神だって言ったじゃん。人智超えてる存在なのよ。俺からしたら愚者も賢者も大差ないぜ。むしろ難題ほど張り切っちゃうよ。うん、ビジョンは見えてる。「愚者」はジョブ進化するほど化けるジョブだしな、俺にとっても特別なジョブだ。とにかく今を生き延びてもレベルを上げていかないと>>


 何かブツブツ始めたな。


<<移動する前にちょっとスキルの練習しておこう。ポケットに入れてもらえるか?>>


 言われるがまま、胸ポケットにアイマを入れた。


<<よし、準備はいいな。対象に意識を向けてスキル名を発するんだ>>


「スキル使う必要あるの?」


<<あたりまえだろう? 「愚者」はステータスがゴミでスキル特化なんだから、スキル使えなかったら生きていけないぜ>>


 いや、スキルもゴミじゃん……


 とは言い返せず…智の魔神が「スキル特化」というからには、名前ほどひどいスキルではないのかも?


 よし、やってみよう。


 自分自身に意識を向けてみる。


 「スタンブル(つまずき)


 右膝が前に突き出し、体勢が崩れた。少しだけ。


 すぐに体勢を立て直す。


「これだけ??」


<<うまいじゃないか>>


「使えるスキルじゃないね。スキル特化なんて言ったくせに」


<<スキル特化だよ。MP消費もないし、必中で、インターバルも短い。そんなスキル滅多にないぞ>>


「だからってこんな自分が一瞬体勢崩すだけのスキルが何の役に立つのさ」


<<いいから、まずはスキルの発動をできるようにするんだ。状況によって使い方は指示するから。もう一つのスキルも使ってみろ>>


 何か納得いかないな……

 と思いながらも、次のスキルに少し期待する。つまずくだけよりはマシだろう。


ケイオス・ライオット(むちゃくちゃ暴れる)!」


 体が勝手に動き始める。両腕が何もない中空を殴り、両足が交互に空を蹴り、そうかと思うと何もないところにタックルを繰り出す。

 今までの人生でこんな激しい動きをしたことがない…


 いや、こんなの当たんないし、当たっても俺のステータスじゃノーダメでしょう……攻撃力補正なしだった気がするし。


<<うん、オーケー。良いスキルだ>>


「え?! どこが良いスキルなの?」


<<消費0でそんな激しい動きができるんだぞ。疲労も全くないだろう?>>


 確かにそうだけど、それで?って感じなんだが…


<<よし、じゃあ、行こう。魔物に遭遇したら必ず俺の指示に従うんだ。じゃなきゃ、君はすぐ死ぬよ>>


 こんなスキルで、もちろん自力で生き延びられるとは思っていない。

 アイマに従って生き延びられるかも半信半疑だ。

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