第十七話 ギルドマスター
「リンネ、大丈夫か?」
ゲセナー侯爵家を出てからリンネの口数が明らかに減っていた。
「うん……もう大丈夫……かな」
あまり大丈夫そうじゃないな。
「何というか……無理しないでくれよ。リンネは僕の大事な仲間なんだ」
「気持ちの整理はできているつもりなんだけど……私の手で恩人を殺めてしまうのはやっぱりしんどいね……ユウマ、ちょっとだけ甘えさせてもらっていい?」
「うん?? もちろんだよ」
そう答えると、リンネが僕にそっと抱きついてきた。
前にもこんなことがあったな……泣いているのか……そりゃしんどいよな……
<<お楽しみ中に悪いがギルドはすぐそこだぞ>>
アイマ……智の魔神のくせに空気読めないのか??
「うん、私は大丈夫。ユウマのおかげ。ありがとう」
そう言ってリンネが僕から離れた。
行くか……
ギルドに入ると、相変わらずの盛況ぶりだ。もう夕方だから報酬受け取りの冒険者がほとんどか。
さて、顔見知り?のアリアさんのところに並ぶか。
と、肩を叩かれた。
「『ラスティ・ジャンク』か?」
振り返ると、年配の筋肉質の男だった。顔には深い皺が刻まれているが、見るからに強靭そうな体躯は、歴戦の冒険者を思わせる。
「はい、そうですが……」
つい認めてしまったが、大丈夫だろうか。何か胡散臭いおっさんな感じもするが……
「猫族の獣人とボーッとした感じの男の二人組パーティーと聞いていたが、当たりだったな」
「ギルドマスターをやっているラッセルってもんだ」
マジっすか!?
そういえば、マーガレットがギルドマスターによろしくって言ってたな。
僕たちに何か用があるのか?
「ちょっと裏に来てくれるか?」
「えっ?」
「いいから、来い」
そう言って僕の腕をグイっと掴む。
めっちゃ力が強い……
「わ、わかりましたから……」
そうして僕たちはギルドマスターらしき人についていった。
何かマズいことしちゃったのかな……いざとなったらマーガレットに助けを求めたほうがいいかな。
「あの……マーガレット・コンスタンティン様がギルドマスターによろしくとおっしゃっていました……」
「ああ、そうだろうな」
そうだろうな?? どういうこと?
「入れ。俺の部屋だ」
そこは冒険者ギルドのバックヤード、ギルマスの部屋ということだ。
僕たちは言われるがまま、部屋に入っていく。
「そこに座れ」
中には、来客用のものと思われるテーブルとソファがあり、ラッセルはそこを指さした。
また僕たちは言われるがままソファに座る。
「ガーゴイルを倒したんだな?」
「はい……」
「ああ、そうだ。まず報酬を渡しておこう。銀貨3枚だったな」
ラッセルはズボンのポケットを無造作に探り、コインをいくつか取り出し、テーブルに銀貨を1枚ずつ放り投げる。
僕はそれを拾った。
「まずは事務的なことを片付けよう。今日から『ラスティ・ジャンク』はB級に昇格だ」
「は? 僕らE級ですよ」
「ギルマス権限の特例だ。いくら自信があってもいきなりE級からガーゴイル級の討伐をするやつは前例もない。それくらいいいだろう」
いや、まあ、依頼の選択肢の幅が広がるからありがたいっちゃありがたいけど。
「次の依頼は俺から説明させてもらおう」
選ばせてはもらえないのね…….




