第十一話 悪役令嬢の依頼
広大な屋敷の広間に通されると、マーガレット・コンスタンティンがいた。
控えめに言って、驚くほどの美人だった。
輝くような金髪に、作られた人形のようにあまりにも整いすぎた目鼻立ち。
黒っぽいドレスは過剰な装飾もないのだが、着ている女性によって美しさを増しているように見えた。
この感じでは、愛でられるよりも恐縮されてしまい、逆に一緒にいる男性は疲れてしまうかもしれない。
アルフレッドもそれで嫌になったのだろうか。
「よくいらしてくださいました。依頼を受けてくれたことを感謝いたします」
声も高すぎず低すぎず、耳障りがとても良い。
が、にこりともしない。確かに何を考えているのかわからない。
「いえ、こちらこそ。僕たちは『ラスティ・ジャンク』です。よろしくお願いします」
「変わったパーティー名なのね。2人だけのパーティーなの?」
「ああ、はい…あ、いえ…」
<<俺のことを隠す必要はないだろう。俺はアイマ、魔神だ。このパーティーの頭脳だ>>
マーガレットの右眉がピクリと動いた。
ちょっとは感情があるようだ。
「3人なんですね。あら、あなた…」
「私のこと覚えてらっしゃいますか?」
「リンネね。家出したの?」
「いえ、家出ではなくて、捨てられました」
またマーガレットの右眉が動く。
「それは…大変でしたね。でも首輪はまだつけているのね…」
「はい、奴隷契約は残ったままなんです…」
「あら、そうなの。でもそのことは問題ないわ」
え? アイマと同じことを仰る。何で皆心配しないの? 僕の知らない何かがあるの?
<<依頼内容について教えてもらえるか?>>
アイマが発言しても、マーガレットの右眉は動かない。もう動じないようだ。
只者じゃないな。
「そうですね…ゲセナー侯爵家についてはもうご存知ですよね?」
おお、やはりゲセナーがらみの依頼か? それで依頼内容は秘密にしておかないといけなかったんだな。
<<おおよそのところは把握している>>
「では話が早いですわね。ゲセナー侯爵家に行ってガーゴイルを討伐してきてもらえますか?」
「ガーゴイルというのはアルフレッド様のことですか?」
「違います。ゲセナー侯爵です」
「どういうことですか?」
リンネが驚いた顔で聞く。
「リンネ、あなた、アルフレッドの専属になってから、ゲセナー侯爵を見た?」
「…いえ、見てないと思います…それがガーゴイル関係あるんですか?」
「ガーゴイルはゲセナー侯爵よ」
え?
「仰っている意味がわかりません。ガーゴイルって魔物ですよね? なぜジョセフ様がガーゴイルなんですか?」
「もう長いことゲセナー侯爵が行方不明になっていることは上流貴族の間では知られているんだけど、町が混乱するから、状況がはっきりするまでは、そのことは伏せられているわ。あなた、アルフレッドの愛人のセリーナは知っているわね?」
「…はい…セリーナ様も何か関係が?」
「セリーナがゲセナー侯爵に魔素注射をして、魔物化させたのよ」
リンネが言葉を失う。
「…そんなことが…とても信じられないです」
「セリーナは魔族よ。魔族と言ってももちろん現代魔族だけど。一部の魔族が、人工的に古の魔族や魔物を生み出そうとしているの。私はセリーナがその魔族の一人で、ゲセナー侯爵家を乗っ取ろうとしていることを突き止めたの。それをアルフレッドに言ったら、皮肉なことに私がゲセナー侯爵家を乗っ取ろうとしているんだろうと事実無根なことを言われて…アルフレッドはすでにあの魔族に魅入ってしまっていたのよ」
話がややこしくなってきたな。
現代の魔族と古の魔族って別なの?
で、セリーナという人が現代魔族で、古の魔族を復活してゲセナー侯爵家を乗っ取ろうとしていて、マーガレットが濡れ衣を着せられたと。
それが本当なら、マーガレットはハメられた悪役令嬢じゃん!




