第百四話 ジャンク王国と古の魔族とアビスヴォイド教団
《信用する必要はない》
「何?」
《だが俺たちは利害関係で一致するはずだ》
「利害関係? 何を言っておるのだ、魔神よ」
《魔王も気づいているはずだ。「アビスヴォイド」が復活させられようとしていることを。封印されていた魔界のゲートが開いたこと自体がその証拠だ》
「アビスヴォイド……深淵の……虚無の神のことを言っているのか?」
《そうだ。アビスヴォイドが復活すれば魔族もただでは済むまい。特にゲートが開いた今、魔界まで虚無に飲まれてしまう可能性がある》
魔王アスラゼルは少し思案し、再び口を開く。
「確かに虚無の王が復活するなどということになればどうなるかわからんな。しかし虚無の王など実在するのか? あんなものは伝承にすぎないと考えていたが」
《俺は別の世界線からアビスヴォイド復活の観測をしたことがある》
アイマが衝撃の発言をする。
「何をバカな……」
《魔王アスラゼルよ、おまえも長く生きているだろうが、俺はおまえの生など比較にならないほど遥かに長い時間を生きている。おまえでは想像もできないようなことも経験しているのだ。信じようが信じまいが事実は変わらん。
アビスヴォイドが復活した世界線では、世界線自体が消滅する》
「……ふん、仮にそうだとすると、虚無の王が復活すればおまえたちも我々も無事では済まんということか」
《そういうことだ》
「それでひとまず手を組もうというわけか? しかし我々に何の益があるのだ」
《一つは、俺たちがアビスヴォイドを復活させようとしている者たちを知っているということだ。そしてもう一つは……》
アイマが僕のことを指差す。
《もしジャンク王国に与するのであれば、このユウマ・ジャンク王がおまえたちに絶大な力を与えてくれるぞ」
「力? 俺は魔界で最強の魔王だ。これ以上力があったところで……」
《もし「虚無の王」が復活したら、魔王でも太刀打ちはできんぞ。いや、「虚無の王」を復活させようとするアビスヴォイド教団にすら勝てないだろう》
それを聞いて魔王アスラゼルが高笑いする。
「魔神でもそんな下らん冗談を言うのか」
《俺は下らん冗談は言わん》
アスラゼルが笑いを止めた。
「なるほど。まあ、いいだろう。今回は魔神に免じて見逃してやろう」
「やったー!」と心の中で僕は叫んだ。ありがとう、アイマ。
「ところで、現代魔族とやらはどうなのだ? おまえらジャンク王国とは敵対しているのか?」
「いや、特に敵対はしていないよ。僕たちもまだ王国を樹立したばかりだし」
ほっとしたので、アイマに代わり僕が答える。
「でもアビスヴォイド教団を率いているのは、現代魔族みたいだね」
「ちょっと待て。つまりおまえらは『虚無の王』を復活させようとしている現代魔族を容認しているということか? 魔神の話と食い違うように思えるが」
魔王アスラゼルの表情が急に険しくなる。
「あ、いや、僕らはアビスヴォイド教団の現代魔族とは敵対しているけれど、他の現代魔族とは敵対していないんです」
「現代魔族は内部で分裂しているということか」
僕は大きく頷く。
「そうそう、そうなんです。だから僕らはその一部のアビスヴォイド教団と敵対しているんです」
「そうか。魔族といえば裏切りも日常的なことではあるからな。だからこそ魔王は常に力を誇示せねばならんのだ」
わかったので、力は見せなくていいです……
「ふむ、ではまずその現代魔族とやらに会いに行くとするか」
そう言い残して魔王はジャンク王国領を去っていった。




