第百三話 古の魔王降臨
それは、黒い外套を着て、少年のような姿をしていた。瞳は赤く、額の左右から角が生えていた。
それは魔族化したガイウスを思わせる特徴だった。
「まさかベヒーモスをテイムするとはな」
少年はそう言い、僕たちのほうを見渡した。
その視線がアイマのところで止まる。
「魔神までいるのか」
「あの、どなたでしょうか?」
そう言いつつ、その容姿から、まず間違いなく古の魔族だろうということは推察できていた。
《そいつは「魔王」だ》
「え?」
少年が笑みを浮かべた。
「さすが魔神だな。俺がわかるか」
「魔王ってあの魔王?」
僕はアイマに尋ねる。わざわざ魔王が魔族連邦国から来たのだろうか。
《いや、その魔王ではない。こいつは本物の魔王だ》
本物の魔王?
「ちょっと言ってる意味がわからない」
《現代魔族の魔王ではなく、魔界から来た魔王だと言っているんだ。
どうやら魔界のゲートが開いてしまったようだ。今駆逐した魔物たちも、魔界から来た魔物たちだろう》
「は?」
つまり、古の魔族の系譜の魔王……。
「それってやばくない?」
《うむ、強いな。戦っても勝てないかもしれん》
アイマが勝てないっていうのなら勝てないのだろう……。ここは仕方ない。
「あの……できれば僕以外の皆は見逃してほしいのですが……」
「おまえは何なのだ? 魔神の主人か?」
魔王が僕を睨む。
「主人」ってあまり、しっくりこないな。
「まあ友人ですかね」
《こいつは現ヒト族の王、ユウマ・ジャンクだ》
いや、ヒト族の王は言い過ぎでしょう?
「ほう、なるほど」
《魔界から来た魔王のあなたが把握しているか知らないが、現在のヒト族はかつての魔族の子孫だ。つまりあなたと同族と言っていい》
「現在の地上の状況は知らん。俺が知っているのは、千年前に地上で魔王が討たれたということだけだ」
《それで状況を知らないから、魔物たちに我々を攻撃させたのか?》
「状況はわかった。だが、魔王は一人でよいと思わんか? 話を聞く限り、この魔王アスラゼルに加え、その男、ユウマ・ジャンクともう一人、現代の魔王とやらもいるのか?」
「僕は魔王のつもりはないですけれど」
念のため、言っておく。これで敵対視するのをやめてくれるとは思わないけど。
《ユウマはともかく、確かにこの地上に魔王と呼ばれる者はもう一人いる。それは千年前はヒト族と呼ばれていて、千年前に魔王を討伐した者の末裔だ》
「……なぜそんなややこしいことになっているんだ」
《もとはといえば、魔族が魔素をこの地上に持ち込んだのが原因だ。千年前に魔王が討伐されてから、魔族の魔素をヒト族が奪い、利用するようになって、魔素の権利を自然と独占するために魔族と名乗り始めて歴史を歪曲したんだ》
「……気に食わんな」
怒りの矛先が現代魔族に向いてくれたかな?
「それでおまえたちは、どうなのだ。我らと同種族でありながら、新たなヒト族として、我々に挑もうとするか?」
向かなかったか。
「いえ、できれば平和的で友好的な関係が築ければいいと考えています」
「我が魔獣たちを殲滅しておいて友好的と言うか?」
魔王アスラゼルの赤い眼光が僕を射すくめる。
「それはそちらから攻めてきたわけで、仕方なく撃退したと言いますか……」
「おまえらが本当に魔族であれば攻撃しないのだがな」
《ジャンク王国には旧魔族、つまりヒト族以外の種族もいる》
「それなら攻撃されても仕方ないな」
何が仕方ないの?
「俺がおまえらを信用することもできない」
そう言って魔王アスラゼルが右手を掲げた。
戦うしかないのか……?




