第九話 死神、怖い
「気づいていたか。まあ、気づかれたところで何も変わらんがな」
腰に長剣を携えた剣士の男が言う。
「まさかあんたが生きていて、マーガレット嬢の依頼を受けるとはな」
剣士の視線はリンネの方に向いている。
「悲運で魔物に殺されたことになってんだから余計なことすんじゃねえよ」
リンネは剣士を睨み返す。
「まあ、ここで見つけられたんだし、いいじゃない。ここで殺しちゃえば」
今度は魔法使いらしき女が言う。
僕はリンネの前に出て、守るようにポジションを取る。
が、怖い。相手はA級パーティーなんだよね……
<<おまえは前に出るな。やつらのステータスは確認した。問題ない。ちとリンネの負担が重くなるかもしれんが>>
「死体の処理、面倒。二人も。面倒」
大きな盾を担いだタンクの男がぼそっと言う。体は大きいのに声は小さいんだね。
「なぜ僕たちを狙うんだ?」
勇気を振り絞って声を出す。剣士の男が僕を値踏みするように見る。
「おまえこそ何者なんだ? なぜリンネに近づいて、マーガレット・コンスタンティンの依頼を受けた?」
「え? いや、E級でも受注できて、金額も良かったからだけど……」
そう答えると「ノーブル・エッジ」の四人が呆気に取られる。
「え? ただのバカなの?」
魔法使いの女が甲高い声で言う。気に障る声だ。
すると他の3人が笑い出す。
「そ、そっちはどうなんだ? なぜ僕たちを尾けてきたんだ? リンネに危害を加えるなら許さないぞ」
「なんでこれから死ぬやつにそんなこと言わないといけねえんだ」
また四人が笑い出す。
「何がおかしいんだ!?」
「弱っちいバカがイキがってるからに決まってるだろう」と剣士の男が言う。
<<しゃべってばかりで全然攻撃してこないだろう。挑発しているのはこちらの攻撃を先に受けて力を見たいからだ。タンクの「受ける」力によほど自信があるんだろう。やつらがA級なのはその慎重さとタンクの実力によるようだ。他のやつらはそんなに大したことない>>
とはいえ、僕よりは全然ステータス高いんでしょう?
<<万が一のために、こちらが攻撃を仕掛けたという事実を作って、正当防衛を成立させたい狙いもあるはずだ>>
「こっちだってバカにされたくらいで攻撃したくないよ」
<<うん、そういうところはいいぞ、ユウマ>>
なんか知らないけど、珍しく褒められた。
バカだとか弱っちいとか言われ慣れすぎて、正直何とも思わない。
<<この状況はこちらに有利だ。ユウマは下がって距離をとって「ケイオス•ライオット」を発動しておけ>>
リンネを残し、僕は後ろに下がり少し距離をとった。
攻撃されそうな様子がないのは確かだな。
「ケイオス・ライオット!」
体が勝手に動き出す。相手の注意がこちらに向いているのがわかる。
新武器のダブルエッジ・グレイヴが宙を切り刻む……というか、無茶苦茶に振り回される。
スキルのおかげか、重量はほとんど感じられない。
刃が前後にあり、軌道も読めず、近づくにはかなり危険に見える。
攻撃力が低いから、実際に当たっても大したダメージはないだろうけど。
「ノーブル・エッジ」のメンバーたちは面食らった様子だったが、武器を振り回しながらもまったく攻撃してくる様子のない僕を見て、次第にまた笑いが込み上げてきたようで、爆笑している。
「リンネもなんでまたあんな頭がおかしいやつと一緒にいるんだ?」
リンネの顔は見えないが、握りしめた拳から怒りが感じられる。
「俺たちと一緒にアルフレッド様のところに戻るなら、とりなしてやってもいいぞ」
リンネは首を振る。
剣士の男がイライラし始める。
「亜人の奴隷が手間取らせやがってよぉ! おまえらは最下層の生物だっていい加減認識しろや!」
なんて酷いことを………リンネの心中が思いやられる……
「あなたたちこそ、結局アルフレッド様にいいように使われているだけじゃない。奴隷と何も変わらないわ。独立して生きている分、私の方があなたたちより上よ」
「何だと? おまえ、奴隷の首輪をつけたままでよくもそんな態度がとれるな」
完全に僕の挙動からは注意が逸れているな。リンネには申し訳ないけれど、かなりディストーションも溜まってきている気がする。
「もう埒があかねぇな。どうせ誰も見てねぇから殺ってやるぜ」
剣士が長剣を抜いた。
そのまま剣を振り上げリンネに向かっていく。
<<ディストーションレート: 80%を超えている。充分以上だ。ユウマ、「エンカレッジ」をリンネに。が、その前にリンネは「ソウル・プロテクト」を発動だ。剣士は無視して、ユウマが「エンカレッジ」したらタンクをやれ。「コロージョン」を使ってどこでもいいから攻撃を当てるだけでいい>>
「ソウル・プロテクト」
「エンカレッジ!」
リンネの胸の辺りが薄く光る。
リンネは素早く動き出す。
剣を振り上げたままの剣士の横をすり抜け、タンクに突進していく。
目で追うのも大変なスピードだ。レベルアップとカランビット・ダガーの速さ補正で、一段とスピードに磨きがかかったようだ。
「コロージョン」
スキルが発動し、カランビット・ダガーを素早く振り抜く。
が……
盾で防がれてしまった!
さすがにA級のエース盾か……
もう一度ディストーションを溜めさせてもらえる隙はもらえないだろう……万事休すか……
と思っていたら次の瞬間、タンクが崩れ落ち、ドサっと大きな音を立てて倒れた。
え? 盾で完全に防がれたようだったけど??
死んじゃった!?
よく見ると、タンクの盾や鎧は錆びつき、肉体も干からびたように痩せ細ってしまっている。
これが死神のコロージョン……僕のエンカレッジがあったとはいえ、盾の防御すら無視で追加効果とは……怖すぎるスキルだ……




