プロローグ
死にたいとは思っていなかった。だが、体が勝手に動いていた。
コンビニバイトの夜勤明けの朝、帰り道にある公園で酔っ払いが笑いながらホームレスの老人を蹴り上げていた。
次の瞬間、酔っ払いの振り上げた手に光るものが見えた。
「やめろ!」
叫びながら僕は走り出し、間に入り、老人に覆いかぶさるようにかばった。
背中に鈍い痛みが走る。ナイフか何かで深く刺されたような感触。
「逃げて……」
老人が這うように動き出した。
酔っ払いのほうを見ると、後ずさりながら獣のような目でこちらを睨んでいた。
僕が睨み返すと、やがて興奮が冷めたのか、「ちっ」と舌打ちして走り去っていった。
ーーそれでいい。
大した人生ではなかった。頭のできが悪く、かろうじて無名大学に入ったものの、売り手市場と言われた就職に失敗。褒められるようなところは少なかったが、今は人を一人でも救えた。
もう少し趣味のラノベを読みたかったな、と思った。もし異世界転生でもできるなら、チートスキルでもっと多くの人を助けたい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
<<異世界でおまえは何を望む?>>
いや、だから多くの人を救いたい。
<<よし、じゃあ起きろ。死ぬぞ>>
もう死んだんじゃないのか?
<<死んだが、異世界に転生したんだ。いいから、起きろ>>
え? じゃあ、チートスキルも?
<<まあ、それはあれだ。ちょっとあれだな。そんなのは後でちゃんと見るから、ひとまず起きろ。転生直後に死んだら人助けも何もないだろう?>>
そうか、異世界転生できたか! よし、じゃあ起きよう。
<<起きても絶望はするなよ>>
え? どういうこと?




