第5話 灰の聖女、王国を裁く
「王座の間に到着……」
扉の奥、重厚な空気が私を包む。
燃え尽きない身体に力を込め、剣を握り直す。全てを裁く覚悟で。
「……アグリッピナ」
声の主は王。豪奢な玉座に座り、偽りの笑みを浮かべる。
「よく来た。お前の力は認める。しかし、この国の秩序を壊すことは許されぬ」
「秩序? 欺瞞と暴虐のどこに?」
剣を振り上げる手が自然と動く。死ねない身体が、ここで真価を示す。
王は部下を次々と差し向ける。
だが、彼らの刃も、私には届かない。
斬り伏せるたび、心の中で決意が燃え上がる。
「リアム……信じてくれ」
「……分かっている、だが止められん」
かつての婚約者は今、私の背後で補佐する。裏切り者ではなく、共に戦う仲間として。
「王国を守るために?」
「いや……お前を止められない」
彼の声に、私は小さく笑った。戦いの中で、友情や愛情が混ざる瞬間。だが、迷いはない。
王が自ら剣を取り、私に迫る。
「聖女よ……この国を滅ぼす覚悟があるのか?」
「覚悟など、最初からあった」
衝突する剣。金属音が鳴り響く。
刃と刃の間で、王の目が揺れる。恐怖と驚き。
「お前は……死なない……?」
「死ぬわけがない。私は、異端の聖女――灰の中で生きる者」
叫びとともに、王の剣を弾き飛ばす。
「これで終わりだ……王国を裁く」
剣を振り下ろす瞬間、王は目を閉じる。
火に焼かれたような痛みも、絶望も、私には効かない。
全ては、私の意思のままに。
王の息が止まり、玉座の間に沈黙が訪れる。
「……これで、終わったのか?」
リアムの声が震える。
「終わった……でも、これからが本当の始まり」
私は剣を掲げ、灰色の王都を見下ろす。
外に出ると、民の視線が集まる。
「聖女が……生きていた」
「異端の女神だ!」
歓声と恐怖が交錯する中、私は微笑む。
「死なない身体を持つ私が、この国を守る」
灰色の王都に、真の秩序を取り戻すために。
欺瞞も暴力も、全てを裁き、そして再生する――異端の聖女アグリッピナの旅は、ここで新たな光を灯す。
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