第4話 裏切りの扉
「王宮への道は二つ。北門は厳重だが、監視が薄い。」
私は反乱軍の前で地図を広げ、冷静に指示を出した。
「……聖女の指示で動くのか」
兵士の一人がつぶやく。恐れと期待が混ざった声。
私はうなずく。死なない身体で、道を切り開くしかない。
夜陰に紛れ、私たちは王宮の壁をよじ登った。
「音を立てるな」
息をひそめ、刃を握る手に力を込める。
敵兵が前方を警戒する。私は小さく息を吸い込み――跳んだ。
着地と同時に、剣を振るい敵を制圧。
反乱軍は驚きつつも、私の後に続く。
「聖女が先陣を切るとは……」
誰かの声が、震える。
だが、私は振り返らない。進むしかない。
王宮内部に入ると、空気が変わった。
豪華な装飾の影に、陰謀が蠢く。
「ここに……王の秘密室があるはず」
私は密かに歩を進める。反乱軍の士気は上がり、私に従う目が強くなる。
そのとき――
「待て」
背後からリアムの声。振り返ると、彼の瞳に戸惑いが混じる。
「裏切るつもりか?」
「裏切る? 私は……」
言葉が途切れる。信頼も、感情も、揺れる瞬間。
だが、王国を救うためには、躊躇できない。
廊下を進むと、背後から物音がする。
「敵襲か?」
振り返ると、反乱軍の一部が、私たちに刃を向けていた。
裏切りだ――。
「リアム、気をつけて!」
私は剣を振り、襲いかかる者たちを薙ぎ払う。死なない身体が、ここで初めて真価を発揮する。
「どうして……」
リアムは混乱する。私は答えず、ただ前へ進む。
王国の中心、王座の間――そこに、全ての真実が待っている。
廊下の奥、王座の前にたどり着く。
「……ここに、全てがある」
私は呟き、胸の奥に決意を刻む。
「死なない身体を持つ私が、王国を裁く」
剣を握り直す。灰色の王都を貫く異端の聖女――アグリッピナは、全てを壊す覚悟を固めた。