第3話 異端の刃
「ここが、反乱軍の拠点か……」
息を潜めて扉の陰に身を潜める。私は死なない。痛みも恐怖も、すべてが私の味方だ。
「聖女が来るとは……本当に?」
小声で囁かれる声。女兵士の目が、私を捉えた。
「私は死なない。だから、あなたたちの力になれる」
その一言で、彼女たちの表情が変わった。疑いと警戒の中に、わずかな希望が混ざる。
「……なら、信じてみるか」
リーダーの男が頷く。私は静かに剣を握った。
「敵の偵察部隊が北門を突破する!」
報告が飛ぶ。反乱軍の士気が揺れる中、私は前に出る。
「任せろ。私が止める」
振り下ろした剣が、空気を切る音とともに敵兵を薙ぎ払う。
痛みも死も、私には関係ない。斬るたびに、心が熱くなる。
「……まさか、聖女が戦うなんて」
小さな声が聞こえる。だが、振り返る余裕もなく、次の敵が迫る。私は前進する。燃え尽きない身体で、異端の刃として突き進む。
「リアム、来い!」
彼が現れる。互いに剣を交える。
かつては共に微笑んだはずの彼との戦いが、今、現実になる。
「なぜ、俺の国を壊すんだ!」
「壊さないと、救えないの!」
言葉の重さと刃の衝突。血の匂い。恐怖ではない。これこそが、私の生きる理由。
敵を蹴散らし、反乱軍の士気が上がる。
「聖女……いや、異端の女神だ!」
誰かが叫ぶ。私の存在が、伝説になり始めていた。
戦闘が収まると、私は王宮への道を思い浮かべる。
腐敗した王国を、誰もが恐れる中心部を、私は突き進む。死なない身体を背負い、痛みと共に。
「王も、聖堂も、すべて壊す」
心に決め、剣を握り直す。
異端の聖女――アグリッピナの戦いは、まだ始まったばかりだ。