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第2話 灰色の王都と裏切りの微笑

炎の中で私は意識を取り戻した。

灰と煤、そして燃え残った薪の匂いが鼻を突く。痛みはあった。全身が焦げて、皮膚はヒリヒリと裂けるようだった。しかし、死ねなかった。身体は、まるで私の意志を試すかのように、痛みだけを残していた。


「……これは、呪いなのか?」


呟きながら、私は広場を抜けた。人々は逃げ惑い、恐怖の声をあげている。だが、逃げることも、隠れることもできない。私には行くべき場所があった――王国の闇を見極め、破壊すること。


その足は、自然と王宮へ向かう。

燃え残った街路を抜け、朽ちた橋を渡る。

石造りの城壁の向こうで、王国の腐敗が、待っている。



王宮は豪華だが、どこか不吉だった。

黄金の装飾は埃に覆われ、豪奢な椅子の背もたれには、血の染みがうっすらと残っていた。

廊下を歩く使用人たちは、私を見ると慌てて伏せる。だが、眼の奥には恐怖だけでなく、羨望があった。


「……聖女が、死なずに歩いている……?」


そう、私は死なない。死ねないのだ。

人々の恐怖と羨望が入り混じる視線の中で、私は冷静に、王宮の中枢を目指した。


廊下を曲がると、そこに立っていたのは――

かつて私を愛し、王国のために共に戦ったはずの青年、リアム。


「アグリッピナ……お前が……?」


彼の目は、困惑と恐怖と、そして微かな罪悪感で揺れていた。

私は立ち止まることなく、静かに言った。


「リアム。覚えている? 私が何のために生きたかを」


彼は答えない。ただ、背後の王宮の奥に視線を向ける。

そう、王宮は私たちの想像以上に腐っていた。聖堂も、王も、臣下も。すべてが欺瞞の上に成り立っている。


「ならば、私は異端として、この国を壊す」


言葉を放つと同時に、私の手の中で剣が輝く。

燃え尽きない身体と同じく、この刃もまた、裁きの象徴となる。



王宮の中庭に足を踏み入れると、陰謀が渦巻いていた。

臣下たちは陰で密談を交わし、王は無知な笑みを浮かべている。

そして聖堂は、民を支配するための道具になっていた。


「ここまで腐っているのか……」


私は独り言を零し、心に決めた。

この国を、変える。いや、破壊して、再生するのだ。


炎に焼かれ、死ねず、身体を痛めつけられた日々が、私を強くしていた。

リアムは私を止めようとしたが、それも無駄だった。

私は、聖女ではなく――異端の英雄となる。


夜の帳が降りる頃、王宮の影の中で私は立っていた。

灰色の王都は静まり返り、遠くで狼の遠吠えが聞こえる。

死ねない身体を背負いながらも、私は歩く。痛みも、絶望も、恐怖も――すべてを力に変えて。


「行こう……これからが、本当の戦いだ」


闇に消える私の影は、もはや聖女ではない。

灰色の王都に、新たな光――いや、新たな炎を灯すために。

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