渓谷での出会い
黒い煙が重く空を塞いでいた
燃えた草と肉の匂いが鼻にこびりつき、離れない。
遠くの方で風が唸る。獣の声でも風の音が正直言ってどちらでも良かった
「死に損ねたか、クソったれ」
レオンは横たわりながらそう言った。横たわる石のそばには泥に濡れた岩肌。血は乾いて岩にこびりつき、敵の矢を受けた時の傷を縛った時の包帯は赤黒く染まっていた。
もう男には体力は残っていなかった。体は傷だらけ、顔は泥だらけ。
(どこかに休める洞窟でもないのか…?)そう切実に願いながら、そこでぷつりと意識は途切れた。
「お…おい、大丈夫か?」
意識の遠いところから何かが聞こえる。これは間違いなく人間の声だ…。だが聞きなれない声だった。
(ん…、なんだ…?っ、敵か!?)
レオンは急いで飛び上がった。そこには見知らぬ男が自分を覗き込んでいた。
男というより少年だった。だが、紺色の外套を纏い、灰色のマフラーを首に巻いている。派手さはないがどこか
育ちの良さを感じる少年だった。
「答えられるか…?まあ、こんなにも勢いよく飛び起きたんだ、返事の一つぐらいできるだろう」
「放っておいてくれよ…、俺はここで一思いに死にたいんだ」
それでも少年は引かなかった。
「こんな場所で死なれては俺が困る。下手に死なれて俺の足を引っ張るとかやめろ。そもそも俺はお前の名前すら知らねえ、名前も知らない奴が俺の隣で死なれても飛んだご迷惑なだけだ」
戦場でこんなまともな会話をしたのなんて何年ぶりだろう。
少しこいつに付き合ってやってもいいかもしれない。
「俺の名前はレオン、まあ名乗るほどのもんじゃねーけど」
「レオンか…、俺はカイル。よろしくって言える状況じゃないけどな…」