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第九話 道

二人生活から何か変化するのか、空に誘われた稜と茜は熱海に向かいます。

 空からの突然の連絡以降、珍しく日中のシフトに入っていた茜はお昼時の忙しいレジを担っていた。

「レジ袋要りますか?はい、ありがとうございました~」

すっかり慣れたレジ仕事。手際よくこなしていく。

「お~お姉ちゃん、今日は珍しいな」

よく顔を出す関西弁の白髪のおじさんが来た。

「こんにちは、いつものたばこ?」

おぉと手を上げて返事をし「お姉ちゃん、こいつのこれも一緒に」と後ろに居た強面(こわもて)の体格もごっついという表現が似合う男が持っている、サンドウィッチとコーヒー牛乳を指さした。見かけとは違い可愛らしいランチだ。

「ご一緒ですね」とバーコードをピッピッと通す。

「あざ~す、ごちそうさまっす」

言葉は雑だがきちんと挨拶の出来るごっつい男だった。

「こいつワシの会社の若い奴やねん。最近、こいつの嫁がこれで」と小指を出して、お腹が大きいというジェスチャーをした。

「あぁ~嫁がこれで…」と茜は繰り返しながら、昭和かよと頭の中で突っ込んでいた。

「ねぇおじさん会社やってるんですか?」

確かワシの会社と言ったなと思い、茜は聞いた。

「ほや、ワシ工務店の社長やがな、こう見えて」胸を張って自慢そうに言う。

「まぁ、社長いうても小さい工務店や。そやけど、最近リフォームが流行ってるやろ、まぁまぁ忙しいねん。家は売れへんけど、リフォームでボチボチでんがな、ハッハッハッ」

「リフォームってデザインとかはどうしてるんです?」

「お~それがこいつの嫁さんがデザイン詳しくて、あともう一人内装担当とかいるんやけど、なんせ、こいつの嫁がこれであれやから、産休の時もう一人雇わなあかんかもしれんねんなぁ~」

「すいません、嫁がこれで、迷惑かけまして」

「ええがな、めでたい事や。産休終わったらまたバリバリ働いてもらうがな」

その会話を聞いていた茜はこれは運が巡って来たのではと閃いた。

おおきに!と店を出ようとする関西弁の白髪のおじさんを呼び止めた茜は

「あの!私、空間デザイン会社に以前いたんですけど、雇ってもらうとかって無理ですか?」と前のめりに言った。

「ほぉ、あんたそんな経歴があったんか?」

「社長、これ運命ですね」

「ははは、運命か、ワシそういうの好きやな。まぁええ、一回履歴書持っておいで。一応面接しとこか、これ名刺置いとくな」

そう言って関西弁の白髪のおじさんは店を去って行った。

よっしゃー!と心の中で茜はガッツポーズをしたそんな時

♪ピロリロリン

『あかねぇ土日休み取って稜ちゃんと一緒にココ来て』

と地図と一緒に空から連絡が入る。

勿論茜も稜もどうしたことかと戸惑いながら結果、出かけることにした。



 土曜の朝、稜は隣の十三がもうあまり乗らなくなったという古いセダンの車を借りた。万佐江はいつものようにおにぎりを持たせてくれた。

「稜君お待たせ!」と車に既に荷物を載せ準備万端の稜の助手席に茜は乗り込もうとドアを開けると、チョコンとロッキーが座っていた。

「え?」

「あぁ、あかねぇごめん、車借りるのにロッキーも乗りたいっていうんで…」

あぁ…と後部座席に茜が移り、前方を見ると二人の男が乗っているようにも見える。その視界が面白くてつい噴き出した。

「え?どうした?」

稜とロッキーが同時に振り返り、それはそれでまたおかしくて

「クククッ大丈夫何でもない…クククッ、出発!出発!」

茜は何だか楽しくなって笑いがなかなか止まらなかった。


 車が走り出し、熱海にいるという空の元へ向かう。途中、箱根駅伝のコースを通り、稜は懐かしくもあり色んなことを思い出した。

祖父に連れられ新年から箱根駅伝を見に沿道で声援したこともあった。そこから大学時代に走った道、木々の音、吹く風、寒さの中に体の中から燃える熱さ、流れる汗、鼓舞する仲間の声、聞こえる息を吐く音…

後部座席から「何考えてる?」と茜が何かを察したかのように声をかけた。

「ん、自己回顧、フフッ」

そう言って稜は微笑んだ。

思い出したい事とか思い出したくないこと、生きていくうちに沢山増えて行く。でも全てが走って来た道。楽な道なんか続かないけど、上り坂、下り坂、色んな道があるから楽しいのかもしれない。

「グググ・・・」

ロッキーが大きな(いびき)をかく。

稜と茜がミラー越しに目を合わせて笑う。

暫く走ると車窓から海が目の前に広がった。

「わぁ~」

二人が声を上げると、ロッキーが少し顔を起こして外を眺める。道にはいろんな景色がある。人生もしかり。

 前方に続く道を多くの車が行き交い、また分かれ道に出会い。道には通って来た軌跡があり、遠回りや間違ったり迷ったりしながら今ここを通過している。そんな道をもし誰かと一緒に進むなら、一緒に笑ったりふざけたり出来る大切な人がいたらいい。

 ふと稜はバックミラーで茜の顔を見た。車窓を楽しそうに眺めている横顔が見える。懐かしいこの道を通ったからか、いつもと違う横顔に見えた。

 茜は窓の外に広がる景色を目で追って、今の車内の空間が居心地が良くて少しうとうとしてきた。こんなに安心した気持ちで他人と一緒に居るのが不思議だった。

 二時間足らずの車の旅、二人の心が穏やかに時を刻んでいた。


お読みいただきありがとうございました。

茜は白髪のおじさんとご縁があったのかもしれません。この先どう関わって行くのか楽しみですね。

そしてついに空の元へ稜と茜が向かいました。二人のドライブかと思いきや、一頭同乗していましたが、どうなるのかぜひ続きをお付き合いください。

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