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第十四話 スタートライン

さて、最終話です。

前回一旦往路編として、稜と茜の恋が実ったところで終わりました。

そこから折り返し、復路編。二人が同棲を始めた新しい生活の物語。いろんな障害の中、いよいよ最終話。

また新たなスタートラインへ二人が向かいます。

 稜の家に茜が戻って来たのはお盆休みが明けて直ぐのことだった。

休み中、早速稜は茜と共に古川家の両親に会いに行っていた。もう一度正式に挨拶をする為に。

「色々ありましたが、茜さんと一緒に生きて行きたいと思います。まだ完全に戻っていない体調も僕がしっかり支えて行きます」

二人は両親を目の前に深々とお辞儀をした。

「もう大丈夫、稜くんとなら笑いながら過ごしていけると思います。見守って下さい」

父の剛は大きく頷き、ゆっくりした口調で

「うまくいかない、ことも、ふたりで、たすけ、あって、ふたりが出会うことが、できたことが、しあわ、せだと、しんじて」

「はい」

稜と茜は声を揃えて答えた。思い通りにならないこと、剛もそうだったはず。不自由になったことも、母の広美と助け合って生きて来た。稜と茜も支え合い助け合って生きて欲しい。

 稜と茜はもう気付いている。ありのままの互いが愛しく大切なことを。




 九月に入って、稜と茜は東京にいた。表参道を二人で歩き、ここに行こうと二人で決めていたジュエリー店へ入る。

「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」

紳士的な男性店員が声をかける。ちょっとドキドキしている稜が「あ、は、はい」と声を詰まらせて返事をした。

「あの~け、結婚指輪をお願いしたくて」

「それは、おめでとうございます」

「あ、はぁ」と照れて頭を掻く稜をクスっと隣の茜が見上げる。

「ではどうぞ、こちらへ」

とソファーのある商談の席へ案内される。

「ヤバッ心臓が口から出そう」と小声で茜の耳元に呟く。「やだ、私も」と茜が目を合わせて笑う。初めての2人のお揃いだね、ふふふっと二人は三日月の目でクシャっとした顔をして笑い合った。


 指輪を決めてから、青山の『Shiota』へ寄った。一度手放すことを茜にアドバイスした潮田祥子。あの時以来会っていなかった。

「こんにちは」

「はい、いらっしゃいませ」

店の奥から若い女性社員が出て来た。

「あの、潮田社長いらっしゃいますか?」

茜が問うと、奥から「はい、私が潮田ですが」と社長が高いヒールをつかつか鳴らして出て来た。

「ひゃぁ!」

咄嗟に変な声を出した潮田は、茜と稜が並んでいる姿を見て驚いた様子だった。

「古川さん、お久しぶり、ていうかこれはどうゆう・・・って、そりゃお揃いだから、ね、え、ね」

少々動揺しているように言葉にならない。

「あの時潮田さんと話してから、私達冷静に向き合えるようになったんだと思います。それで、無事もう一度一緒に住んで、今、結婚指輪をお願いしてきました」

ニコッと笑う茜の顔を潮田は両手で覆い「古川さん・・・おめでとう」と言うなりぎゅっと抱きしめた。

「あぁ~あの後、岩倉君に余計なこと言ったとか叱られて、二人が本当に別れたらどうしようかってずっと心配で心配で・・・」と茜を抱きしめながら泣きじゃくって、ハタと向き直り、稜の手を両手で握った。

「君は手を離す奴じゃないと思ってた!信じてた!」

と言いながら両手を引き寄せ、今度は稜を抱きしめた。抱きしめて背中をパンパン叩いて「よくやった!よくやった!」と泣き続けた。クククッと傍で茜が笑い、稜はどうしていいやら困り顔で、それが更にまた可笑しくて、また稜と目が合い三日月の目で笑い合った。

 少し落ち着いて「あれ?婚約指輪はないの?結婚式は決まってるの?」と潮田が矢継ぎ早に問う。

「いえ、指輪はこれで」と左薬指の月とアクアマリンの指輪を見せ「一緒に暮らしてるし、このまま籍入れればいいかなって」と茜が答えるや、さっと茜の指輪を見る。

「これでいいの?婚約指輪にしたら、ちょっと」と稜の顔を見る。苦い顔をしている稜を見て茜が「これ気に入ってるんで」とにっこり微笑む。

「まぁ三日月は『始まり』ていう意味もあるからねぇ・・・あぁ~でも、駄目よ!結婚式はしましょう!結婚式!ウエディングドレスなら私がプレゼントするわ。テキスタイル関連で服飾方面にも顔が利くから!」

「いや、あの、そんな・・・」などと言っている二人は置いてきぼりで、半ば強引に話が進み、後は任せろということになった。



 『Shiota』を後にした二人は少しブラブラと東京の街をデートした。

「あ!稜くん、私箱根駅伝のスタート地点に行ってみたい」

と茜が突然言い出した。

「何で?」

「箱根駅伝てスタートとゴール同じでしょ?何か面白いなって思ってたの」

「ふ~ん」と二人は大手町駅へ向かった。

『箱根駅伝の絆の像』を見て茜はへぇ~と呟く。

「芦ノ湖の箱根駅伝ミュージアムの方が色々見られるよ、興味あるの?」

ん~と呟きながら像の周りをぐるぐる回って

「スタートってことは、行ってらっしゃいって送り出して、最後ゴールしておかえりってことでしょ。ふ~ん、何か家の玄関みたいだなって思って」

「玄関?」プッと吹いて笑いながら稜が何で?と不思議そうにしていると、もう~と唇を尖らせて茜が言う。

「行ってらっしゃい、無事帰って来てねってことなんだから、帰る場所があるって大事だよ」


茜は母に聞いたことを稜に教える。

「お母さん、行ってらっしゃいってお父さんには言うのなんで?私達には行っといででしょ?」

実家に戻っている間に、茜が母に訪ねたことがある。

「ん~あなた達はこれから自立して自分たちの世界に飛んでいかなきゃいけないから、何となく行っといでって言ってたけど、そうね、お父さんはこれからもずっと二人で生きていくから、『行って無事帰ってらっしゃい』って、あ、知ってた?本来行ってらっしゃいは、そう言う意味の略語らしいのよ」

「え?ほんとに?」

「ま、諸説ありますが」アハハハハハと母の広美は笑っていた。


「なるほど」稜も感心して聞いている。確かに、茜が事故に遭った時、行ってらっしゃいと送り出したのにもう帰ってこなかったら、ととても不安だったあの感覚は忘れられない。

「俺達も、これから毎朝送り出しても必ずあの家に帰ろう。俺たちの帰る場所」

「うん、そうだね」

 目の前の道はここから箱根まで続き、途中の勾配のきつさも乗り越え、またこの地へ戻って来る。稜と茜がこの約一年そうしてきたのも少し似ている気がした。

「あれ?金木犀の香りがしない?」

「ん?どこ?」

少し甘くほのかに香る秋の匂い。かすかに香る匂いが風に乗ってどこからともなく茜の鼻に触れたようだ。去年稜と箱根駅伝の予選大会を見に行った帰り、ふうっと香ったあの香りと同じ。もう一度あの香りを嗅ぐことが出来て茜は嬉しくなった。その瞬間を今年も稜と一緒に居れたから。





 十月下旬になって古川家は『掘っとたいむ』に居た。

「大丈夫?衣装はこれで揃ってるの?」

「ねぇ、ちょっと元太!はしゃがないで」

「あぁ、なんかちょっと気持ち悪い・・・」

「あおねぇ顔色悪いぞ」

うううぅ・・・

「明日あかねぇの結婚式だっていうのに」

そう、稜と茜はここ『掘っとたいむ』で結婚式を挙げることになった。潮田と岩倉が率先してあれこれ準備してくれたようだ。そしてドレスの支度やらがあるのでと、古川家は前日宿泊をしている。

「碧海、それまさか悪阻(つわり)じゃないでしょうね」

母の広美が碧海の背中を擦りながらトイレでそう言う。

「そうかもしれない、い・・・」碧海は身に覚えがある。

「おねぇちゃん離婚するとか毎週のように実家に帰ってたのに、仲いいじゃん」

茜が呆れてそう言うと

「仲悪いなんて言ってないわよ!あいつが仕事仕事っていうから、ほら今日だって当日しか来ないって、もう私がヤキモチやいてたのよ!好きだからもっと構って欲しかったのよ!オえぇ~」

あらあら、と広美が介抱する。

「明日ご馳走食べれないのかしら・・・ぁ」

結婚前日もドタバタな古川家。笑ったり喧嘩したり忙しいのは変わらなかった。



 結婚式当日。

秋晴れの空の下、畑に出来た手作りチャペル。両家の家族と知人は稜の同期の荒木、中学生の陸上部顧問の森野、濱田工務店の濱田社長、事務の大山田、お隣の丘山夫妻、立会人に潮田と岩倉、料理を大石夫妻と知人のイタリアレストランのシェフに来てもらい、紋付袴の濱田以外は少しドレスアップした程度で身内だけのささやかな型に捉われない結婚式となった。


 畑の中に並べられた椅子。牧師の代わりに岩倉が立ち、招待客が席に着く。宿泊施設の玄関から畑に向かいバージンロード風に花が両サイドに並んで導かれている。玄関の扉の向こうに白いタキシードの稜とドレスを纏った茜がスタンバイする。潮田が茜の襟元を直して「ばっちり」とニコッと微笑む。

「俺だけが知ってる茜の印、隠れてるね」

「ん?私も知ってるよ」と笑いながら潮田が横槍を入れる。

 茜のドレスは既製品の胸元が開いたビスチェのロングドレス。ウエストはくっきりして緩やかなAラインで装飾のない上品なものだ。そこに首の傷跡を気にしていた茜の為に、潮田が知り合いにレースでハイネックのボレロを作って貰い更に品よくなった。アップにした髪でも傷跡は全く見えない。

「潮田社長、色々ありがとうございました」


「さぁ、新郎新婦の登場です!」

潮田が扉を開け、二人が歩み始める。拍手の中を一歩ずつ腕を組み進む。倉田の神父風の進行が可笑しくて、何度も笑いが起きたり、少し正装したロッキーがリングドックとして指輪の入った籠をくわえて登場し、一斉に写真を撮られ短い尻尾をピコピコご機嫌に揺らした。秋晴れの空に、また金木犀の香りが漂う。この香りに新しい思い出の記憶が増えた。

 式の後は屋内に用意された席で料理を戴く。体調が良くない碧海は荒木が会社からの祝い品として持って来たブラッドオレンジジュースなら飲めると、ボトルを抱え、料理を美味い美味いと頬張る旦那の横で睨んでいた。

 陸上部の生徒のビデオメッセージを森野が流したり、子供が熱を出したから来れなかった小乃葉と智家族からのテレビ電話があったり、皆に祝われ稜も茜も笑ったり泣いたり大忙しだった。そしてブーケトスは茜から潮田祥子の手に直接渡された。どうしよう、どうしようと戸惑っていたが、潮田の恋物語がどこかで始まることは稜と茜の願いだった。また幸に「食事出来ている?」と心配され稜と茜にそっと差し出されたサツマイモのジェラートを二人でこっそり『うっま!』と味わったり、堅苦しくない仲間たちとの宴も終盤。両家の挨拶として、古川家は父の代わりに空がマイクの前に立った。

「稜ちゃん、あかねぇ、結婚おめでとう!

とはいえ、二人が結婚するとは一年前は思いもしなかったね。でも俺は途中からお似合いだとずっと思っていました。稜ちゃんとは親友だし、あかねぇは家族だし、俺が一番二人を知ってる!だから何かあったらすぐ助けに行くから、喧嘩しても大丈夫、寂しくなっても大丈夫、俺が空気清浄にすぐ行きます。きっと俺と稜ちゃんは友達になる運命、あかねぇとは家族になる運命、あ、今度からは稜ちゃんは兄ちゃんていうの?」

「おいおい、親友のままでいいよ」稜が笑っってツッコむ。

「はい、まるっと家族ね。そういう運命の中で俺たちはきっと生きているんだけど、それよりももっと小さな奇跡に出会いながらそれぞれの物語の中にいます。俺の親友と家族が出会う奇跡、あの日に出会う奇跡、一緒に住むことになる奇跡、あかねぇが死にかけたけどちゃんと戻って来た奇跡・・・本当に生きてて良かった・・・小さな奇跡の中、今ここに皆さんと居ることも奇跡です。だから俺は今凄く幸せです!あ、俺のことはどうでも良かった、ハハハ」

「空!私も幸せだよ!」碧海が急に叫び泣く。

「やだ、あの人お酒飲んでないのに」と茜は泣き笑いしている。

「稜ちゃんとあかねぇの物語はきっとこれからも色んな奇跡のタスキを繋いで続くと思います。二人の物語は絶対幸せになります!今日はそのスタートラインです。ま、俺もちょこちょこ登場するんで、よろしく!」

皆に拍手されながら、照れくさそうに頭を掻きお辞儀をして空は席に戻った。

「では続いて、新田家お父様どうぞ」

緊張しながらも少しお酒が進んだ稜の父、始がマイクの前に立つ。萌がスマホで動画を回し、始がお辞儀をして挨拶を始める。

「ご紹介頂きました稜の父です。稜、茜さん、おめでとうございます。今とても良いお話をされた後で恐縮なのですが、折角のこの機会、けじめの時ですので、え~」

「やだ、お父さん何言うつもりかしら」妻の貴子がちょっと嫌な予感がしているようで口を押えて神妙な顔になる。

「稜、お前あの家、自分の家って言ってるけど、あれはじいちゃんの家でもなく、お前の家でもない、俺の家だぞ」

「え?」稜と茜が目を点にして固まる。

「あぁ~んお父さんそれはまた今度でいいのに」と貴子も口を押えてた手で顔を覆う。

「あれはじいちゃんが亡くなった時父さんが相続して名義は今、俺だ」

「あぁそうだった」稜は現実に返る。そりゃそうだ、これは当たり前のことなのだが、今言うのか?と言う話でもある。

「でだな、この機会にお前に売却するから、買い取りなさい。ローンで構わない。一家の主になってあの家を二人で育てなさい。建て替えでもリフォームでも好きなようにすればいい。自分たちの帰る場所に正式にしなさい。そして二人で楽しく生きて行きなさい。はい、以上!」

そう言って、父の始は自分の席へ戻った。

「もうお父さんったら・・・」と言いながらパシパシ肩を叩く貴子を萌はスマホで撮り続け「後でお兄ちゃんに見~せよ」とクスクス笑った。しかし「素晴らしい!」という濱田社長の声と共に皆が拍手した。

「息子の巣立ち、自立、家族を持つ、お父さんのお言葉立派や~、ま、リフォームのご用命は濱田工務店へお待ちしてまっせ!」

と濱田はスタンディングオベーション張りに大きく拍手した。



 

 結婚式を終えて、その日を境に茜の嗅覚も味覚もほぼ元に戻り、本当の日常が戻った。

十二月下旬の朝。

外の雨の音。寒っ!と思い目を覚ました茜が布団に潜り直す。居るはずの隣の稜に触れないのであれ?と布団をめくる。

「あれ?稜くん?」とベッドの下を探す。姿が無いので部屋から出ると、台所に稜の姿を見つけた。

ふわ~っと出汁の香る匂い。

「お味噌汁作ってるの?」

その声に振り返り「おはよう」と稜が三日月の目で応える。

「ロッキーの散歩、雨だしお休みでしょ。早く起きたし作ってみた」

ちょっと自慢げな顔で手招きする。

「はい、味見して」

小皿に汁を少し取り、茜に差し出す。

うふっと嬉しそうにその小皿を取り味見する。一緒に稜ももう一つの小皿で味見する。互いの左薬指にお揃いが光っている。

『うまっ』二人の声が重なり、クククッと笑う。

「稜くん腕上げたね!」

「だろ!」

そうやって二人で朝ご飯を作り、一緒に食べる。何気ない一日の始まり。

「今日は何時に終わる?」

「ん~定時かな、またコンビニで待ち合わせして帰る?」

「うん」

「夕飯おでん買って帰ろうか?」

「朝ご飯食べてるのに、もう夜ご飯の話?」

アハハハハ!

何でも笑い合って互いが三日月の目でクシャっとした顔になる。どちらもその顔を可愛いと思い、また好きになり、愛おしくなる。

「あ!私お化粧しなきゃ!」

ご飯を食べ終わり時計を見てバタバタと食器を下げ、茜は自分の分を洗い始める。

「ごめん、稜くん自分の洗ってね」

そう言って蛇口からジャァ~っと水を出しすすぐ。

「化粧しなくても可愛いのに・・・」ぼそっと呟く声はすすぐ水の音で聞こえていないだろう、と稜はご飯をかき込む。

洗い終わった茜はニヤッとして振り向き二階へ駆けて行った。


「時間、時間!」と二人で玄関へ向かい、靴を履いて外に出ると雨が上がっていた。

稜が鍵を閉め「行ってきます」と言うと「行ってらっしゃい、行ってきます」と茜が言い、「行ってらっしゃい」と稜が言う。毎朝互いを送り出し一緒にバス停へ向かう。

 バスに乗り込むと人事の風間美奈子と出くわす。

「あ、おはようございます」

稜は風間の隣に立つ形になり挨拶する。

「おはよう!あら、今日もご夫婦お揃いで、幸せそうで何よりです」とニコッと微笑み、何度かバスで一緒になり互いに顔見知りになった茜も会釈する。

「どう?家族になって」と風間は稜の耳元で呟く。それに三日月のクシャっとした笑顔で応えた稜に、風間も大きく頷き「君は顔でよく分かるよ」ともう一度耳打ちした。




 夕方六時半、茜は一足先にコンビニに到着していた。

♪テロリロテロリロ

通勤や通学の帰りの客が店を出入りする。

「あかねぇ最近また良く来るね」

「だっておでんのシーズンだから」

「茜さんまた旦那さんと待ち合わせなんですか?」

男子学生アルバイトの小路が横から口を挟む。

「そう、ダ、ン、ナ、さんと♪」と嬉しそうに答える。

「ていうか、男子学生アルバイトの小路君は就活どうしてたの?もう十二月だよ」

「あぁ決まりましたよ。なんでもう男子学生アルバイトじゃなくなりますんで」

「そうなんだ、無事卒業できそうなんだ、で、どこに就職するの?」とブラッドオレンジジュースのクリスマスバージョンが並んでいる棚に『ラブラブブラッド』と書いたポップを見つけクスクス笑いながら聞く。

「ココ!」

と空が横から口を挟む。

「ん?」

「ココっすよ。俺、空さんに雇ってもらいました」

今まであまり感情を顔に出さない小路がニッコリ微笑んでそう言う。

「そうなんだよ、小路君俺のコンビニで働きたいっていうし、じゃぁ相棒になって貰おうと思ってさ。広い空にも光が無いと迷子になるからさ。何でも分かってるから頼りになるじゃん、小路君」

へぇ~っと茜が関心していると

「空さんの光になりたいんで」と小路が胸を張って茜に宣言した。

「まぁ空は隔たりのない広い空そのものだから、助けてやってね」

そんなやり取りをしていると、稜が「おまたせ」と入って来た。

「お疲れ様!ねぇおでん何買う?」

と茜は稜の腕を掴んで早く選ぼうと促した。レジのカウンターの向こうで空がニヤニヤと仲良く具材を選ぶ二人を見ている。

「お客さん、早くしてくださ~い」

クスクス笑いながら茜は思った。一年ほど前はカウンターの向こう側で不貞腐れていたなと。でもそれがあって濱田社長、森野、何よりも新田稜に出会ったのだ。


おでんを買って二人でコンビニを出て行く。

「もう一年経つんだね。同居生活が始まって」

「だね、でも、結婚するとは、ね」

二人で顔を見合わせて笑う。そうやって家までの道を歩いた。もう冬の空。朝の雨は止んだけど今夜雪になりそうなくらい冷える。喋りながら歩くと二人の口から白い息が何度も漏れる。

「ねぇベッド小さ過ぎない?稜くん寝相悪くて落ちちゃうでしょ?」

「まぁ二人で寝るには狭いか。ギュってなって寝るのも悪くはないけどね」

「結婚しても結局家の中は変わってないし、やっぱりリフォームしなきゃかな」

「濱田社長も協力してくれるって言ってたもんな」

「じゃぁ大きなベッド置ける寝室にしよう」

「うん、あと生徒達がまた来て餃子パーティー出来るリビングも」

「うん、キッチンももう少し広くしたいな」

「あぁでもあの基地、秘密基地は空が遊びに来るのに残しとこう」

「もう空入り浸っちゃうよ」

二人で近い未来をあれこれ描きながら家に近づく。

「でも茜、すっかり完全復活だよね。匂いも味も完璧でしょ?」

「うん・・・、でもね、ロッキーの匂いだけ何故かまだ分からないの」

「え?そうなの?ロッキーそれ知ったら不貞腐れるよ」

と稜は大笑いしている。

「でもさぁリフォームするならお金貯めないとね。新婚旅行やっぱり無理だね」

「そうかぁ。海外は無理だけど温泉くらい行こうよ」

「温泉かぁ、箱根温泉とか?」

「それも悪く無いけど近すぎない?」

そう言いながら家の前に到着した。門扉を開け玄関の鍵を開けようと茜がカギを鞄から出す。

「あ!ここ!ここに行こうよ」

と鍵につけてある事故で傷だらけになったあのキーホルダーを稜に見せる。


「あ!くまモン!」

「ね、ここ行こうよ」

そう言って玄関の戸を開け二人で中に入り声を揃えて言う。

『ただいま!』

『おかえり!』

三日月の目にクシャっとした笑顔で二人は見つめ合う。


「茜」

部屋に入り、不意に稜が呼ぶ。

「ん?」

「これからもよろしくね」

茜がコクンと頷く。


テーブルに置かれたおでんは温かな湯気をたてていた。





 稜と茜の物語はこれからも毎日更新されていく。きっとそれは誰しもの物語も同じ、小さな奇跡のタスキが繋がっていくのだ。思い通りにならない事も二人なら乗り越えていける。

「行ってらっしゃい」の続きは「ただいま」

そんな日々の中に、物語の完走はまだまだ先だ。

お読みいただきありがとうございました。

往路編、復路編と思いの外長い物語りになりました。

しかし、稜と茜のたった一年のお話なのです。人の物語は一日一日色んなことがあったり、何もなかったり、そんな中でもストーリーは進みます。

お散歩下手のロッキーも随分歩幅を合わせて歩けるようになりました。稜と茜の心の歩幅が揃ってきたように。

そして稜と茜だけでなく、空の物語、岩倉と潮田の物語、きっとそこら辺で笑ったり泣いたりする物語があるでしょう。当たり前と思っている、嗅覚や味覚、たったそれだけでも欠けるとどんな日々になるのか。当たり前の毎日はとても奇跡的なことなのかも知れません。

空が挨拶で話した様に、小さな奇跡のタスキが繋がり続いていった物語。まだまだ続く物語です。

稜と茜は家のリフォームをしたり、その中で喧嘩したり笑ったり、たまには丘山夫妻にご馳走もしないと貰ってばかりですからね、そんな事もしながら、仲良く月に寄りそうアクアマリンの2人でいて欲しいと思います。


私はドラマが好きなので物語を書きながら、いつもキャスティングをしつつ、頭の中で映像化しているので、推しがこう言ったら、こんな顔したら可愛いだろうな、面白いだろうな、と本当に妄想しながら楽しかったです。

最初に書いているように推しに出て欲しいドラマをただ妄想の中書くっていう、ちょっと冷静に見るとヤバい奴の書く物語ですが、その中に生きている登場人物が次第に愛おしくなる感覚が毎回好きです。

こんな感じですが、最後までお付き合いありがとうございました。

 皆さんの日々にも素敵な奇跡のタスキが繋がっていきますように。

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